(一財)地域公共交通総合研究所 理事長
小嶋光信
当研究所は、地域の公共交通を守るために、公共交通の実務に精通した産学のブレインが中心になって、地域公共交通問題に実際に取り組んでいる日本で唯一のシンクタンクとして昨年4月に設立し、国会で審議棚上げとなっていた交通基本法の早期成立を願って、昨年8月に岡山で第1回のシンポジウムを行った。
公共交通分野の研究の第一人者であり、研究のみならず具体的な活動や政策策定にも参画されている東大大学院の家田仁教授、京大大学院の土井勉特定教授と名古屋大大学院の加藤博和准教授をお迎えしての「井笠鉄道の破綻で分かった地域公共交通の緊急課題」と題した緊急性の高いシンポジウムであった。
第1回のシンポジウムでは、常々、私が日本の「民間任せの地域公共交通は世界のガラパゴス」と申し上げていることの論理的な裏打ちとして、家田先生の基調講演で「地域公共交通の確保は地方自治体の責務」であるとした欧州の実情から、日本の民間任せの地域公共交通への警鐘を鳴らしていただいた。
両備グループが取り組んできた津エアポートラインによる公設民営の実証実験と、和歌山電鐵、中国バスや井笠バスカンパニーなどによる再生経験に基づく長年の研究が、先生の研究に照らしても手前味噌のものでなかったと安堵した。
その井笠鉄道の破綻で地域公共交通問題の緊急性が俄かに認識され、昨年11月12日の衆議院国土交通委員会で審議入りし、家田先生と私と秋山先生(日本福祉のまちづくり学会 会長)が参考人として陳述し、11月27日に交通基本法が交通政策基本法として衣替えし成立した。その関連法の地域公共交通活性化再生法の改正により、いよいよ地域公共交通の改革が行われるようになるが、行政の皆さんや事業者から、一体どうなるのか、何をしたら良いのかなどの疑問が聞かれた。
そこで、今回の第2回シンポジウムでは「何をなすべきか?」に問題を絞って、法案の起案担当として、国土交通省総合政策局の藤井公共交通政策部長に『「交通政策基本法」と「地域公共交通活性化再生法」の目指すもの』と題して基調講演をいただき、また、この法律の立案に深くかかわった家田先生、過疎地や災害時などの交通維持に詳しい東大大学院の鎌田先生、実務派研究者の土井先生、現場主義で全国を飛び回りこれらの法律の説明などで大忙しの加藤先生をお招きし、パネルディスカッションを行った。
藤井部長に国会の業務ができ、急遽プログラムを変更して対応、基調講演がパネルディスカッションの後になるという貴重な体験もした。
しかし、私から今までの再生と、これらの法律が連動して生まれた背景を説明し、家田先生の『地域公共交通改善に求められる「見える化」と「相対視」』と加藤先生による『意識共有・役割分担・連携協働が地域公共交通を持続可能とする~新しい法制度を賢く活用せよ~地域公共交通破綻の危機をいかに回避するか?』との講演の後、井笠問題に直面し解決された笠岡市の三島市長と鎌田先生、土井先生のパネルディスカッションを経た後の藤井部長のお話は、却って問題点の整理と今後「何をなすべきか?」が明瞭になったのではと、シンポジウム後にいただいた参加者の声で分かった。
質疑応答では、事前に12名の参加者から寄せられたご質問について、その流れを家田先生から「財源」にまつわる問題と「役割分担と連携・協働」に関する問題とに大別していただいて、政策起案者の藤井部長と、法案策定に深くかかわった教授陣、行政側代表としての三島市長と、全員からお答えをいただいた。
財源の問題は、現状では一部充実が図られ地域公共交通改善の助けにはなると評価できるが、今後も起こりうる地域交通の破綻や、規制緩和や三位一体改革で地域公共交通を支えなければならなかった地方公共団体が抱える財源問題を、国がシッカリと法の精神に基づいて支えるには少なすぎるといえる。
本来、地域公共交通が維持困難に陥った大きな理由は、道路整備とともに国民の移動手段がマイカーになり、それも交通が不便でスプロール化した地方都市ほど激しく公共交通からマイカー移転していったことが大きな原因の一つといえる。
マイカー社会は国民のニーズに応えたものであり時代の要請ともいえるから決して敵視するものではないが、一方で国として交通弱者の移動を確保していかなければならないことは憲法の趣旨からも免れないといえる。従って、道路財源も道路を創るということに加え、高齢者や通学者が移動する手段も確保していかなくてはならないということで、道路目的税が一般財源化するときに、移動だけでなく、環境や国民の健康保持やまちづくりの一環として現状維持でも年1000億円、将来の「エコ公共交通大国」を創設する原資として10年間ぐらいの国家プロジェクトとして未来を考えるなら年2000億円を財政投入するべきと強く主張したい。
日本全体の地域の創成を図るための公共交通の基礎的資金として、2兆5千億円のうちの1000億円から2000億円は、極めて費用対効果の大きい財政負担になり、明るい、活発な地域の移動を確保することになることを理解していただきたい。
国、地方公共団体、事業者と国民の役割分担と連携・協働の問題は、
まず今まで公共交通を確保・維持する責任が事業者だけに任されていたものを、他の先進国並みに4者がその責務を認識し、役割分担を図るようになったという画期的な変化を理解することが大事だ。
それに従って地域公共交通活性化再生法で、これら4者の協議により、地方公共団体がリーダーシップを発揮して地域公共交通網形成計画を策定し、それをもとに地方公共団体が事業者等の同意を前提に地域公共交通再編実施計画を策定し、実施していくが、国土交通大臣の認定を受ければ計画の実現を後押ししてもらえる。これからは市町村などのリーダーシップと、事業者の同意と協力がポイントになる。これらの計画は市町村など基礎自治体が中心になり策定されるが、広域になると都道府県が調整や支援をするように役割分担がなされている。
交通政策基本法の制定や、活性化・再生法の改正が目的ではなく、
「如何に地域公共交通を改革して地域の発展に繋げるか・・・」
が大事で、むしろこれからが本番であり、スタートといえる。本気で取り組んだ地域はみるみる元気になるし、後手に回ると後ろ向きの対策ばかりになるだろう。
日本全体で地域公共交通に関わる4者が連携・協働して、地域の公共交通を維持発展させていくという壮大なプロジェクトが今、スタートしたともいえるだろう。
» 「交通政策基本法」「地域公共交通活性化再生法」立法の背景と今後の課題(PDFダウンロード)
2014.8.8