コロナ禍で地域公共交通の経営は大幅なダメージで危険水域に!
―第4回公共交通経営実態調査のアンケートで明らかに―

(一財)地域公共交通総合研究所 
代表理事 小嶋光信

当総研はコロナ禍が顕在化した当初から「コロナ禍前から大半の公共交通事業者が赤字の脆弱な経営体質に甚大な影響を与えると懸念」して2020年4月から9月期の経営実態調査を日本の鉄軌道、バス、旅客船の主要な約500社にアンケート調査を実施し約2割以上の回答を得て、分析し、課題を抽出し、緊急提言をし、今回で4回目の実態調査報告となる。

2022年3月31日をもって緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などの人流制限が解除され、交通や宿泊・飲食サービス業などを中心に景況感は大きく改善したが、再び変異株によるまん延により日本が世界で感染者が最大になるなど猛威を振るって、再び経済に赤信号が点滅を始めた。

今回はその最中の6月に実施したアンケート調査によるものである。

当総研では3年越しのコロナ禍で如何に地域公共交通が疲弊したか、コロナ後も踏まえていかなる問題が招来しているかを確認するために鉄軌道、バス、旅客船の各事業者約500社宛にアンケートを実施し、今回も約2割の事業者から回答を得た。

調査の結果は
輸送人員の減少は未だに3割以上の落ち込みがある事業者が3割を占める
累積損失もこの2年間で2倍となる
剰余金が3割以下となった事業者が2割、債務超過が2割と経営に赤信号が点滅
公的補助・支援がないと1割の事業者が半年以内に経営の限界、2年以内には8割が経営の限界が来ると予想
債務の自力返済は困難が2割、10年以上返済できないが4.5割と合計で3社に2社が返済困難と回答
コロナ禍に追い打ちしての燃料高と乗務員不足
コロナ禍対応に5割が路線廃止と減便で対応しており、現状以上に将来の路線維持・経営維持への不安が極めて高まっている。

今後もリモートや社会生活の変化とインバウンド客の落ち込みでコロナ禍以前の利用客数には1~2割以上は戻らないと懸念される。
従って、

A:短期的課題として
経済・社会の維持には人流制限緩和の継続と両立するコロナ禍対策を施すことが必要
コロナ禍の累積損失に対する補助・支援が必要
雇用調整助成金やコロナ禍対策の政府や自治体の支援は今後も継続が必要
長期かつ無利子の金融支援の拡充が急務
燃料費補助の緊急支援が必要
乗務員不足に対する恒久的対策が必要
と共に
B:中期的課題として
運送法の利用者の利益と健全な事業者の両立を図るような法整備が必要
公共交通事業が赤字体質から黒字体質となるよう業態変革への法整備が必要
③地方創生臨時交付金に「地域公共交通特別交付金」として3,000億円の特別枠の設定と恒久的な財源の確保
「乗って残そう公共交通国民運動」の早急な発動が必要(脱炭素や国民の健康と都市の交通安全という国家課題)と共に
これらのためには
地域公共交通確保維持改善事業の財源確保と事務の簡素化で公有民託、公有民営を推進
債務超過や事業破綻に備えて「地域公共交通再生機構」を設立
国土交通省に縦型から横型にあらゆるモビリティを総動員して地域公共交通を確保・維持するための「地域公共交通総合局」を設置
が必要と言える。

これらの詳しい内容とデータは、「第4回公共交通実態調査報告書」をご参照願いたい。


この実態調査で明らかになったことは、輸送人員の減少が一見好転しているように見えるが、政府や行政の支援でささえられてもなおこの2年間で累積損失は2倍となり、債務超過の交通事業者も2割となるなどコロナ禍が公共交通の今後の経営に与えた災禍は極めて根深く且つ厳しいものがある。特に地域公共交通の今後の路線維持や経営維持には単なる小手先の対策では済むものではないといえるであろう。

当総研としては過去3回の緊急提言などを広く社会に公表し、危機的状況を伝えて「危機に瀕する地域公共交通」という認識を国に共有していただくまでには至ったが、具体的な対策を引き出すまでには至らなかった。

そこでこれは政治課題としなければ解決しないと痛感し、地域公共交通に思いの深い国会議員の皆さんに呼びかけ、この春に自民党の国会議員の有志の皆さんが「公共交通議連」を改変、強化され、岸田政権への提言で「骨太の方針2022」に「地域公共交通のネットワークの再構築」として政策課題になった。

これは既報のようにこの骨太の方針の中に「分散型国づくり・地域公共交通ネットワークの再構築」の項で「デジタル田園都市国家構想の実現に資する持続可能で多彩な地域生活圏の形成のため、 交通事業者と地域との官民共創等による持続可能性と利便性の高い地域公共交通ネット ワークへの再構築に当たっては、法整備等を通じ、国が中心となって交通事業者と自治体 が参画する新たな協議の場を設けるほか、規制見直しや従来とは異なる実効性ある支援等 を実施する。・・・」との政策課題が明言された。

ここで国が主体となり、公共交通とは何かをしっかり再認識されることを期待している。

当総研としては、従前からギリギリの地域公共交通の再構築には①法整備②財源確保③利用促進「乗って残そう公共交通国民運動」を提言していただけに、「地域公共交通ネットワークの再構築」が政策課題として採り上げられ、「法整備」や「実効性ある支援」が明記されたことを心から歓迎すると共に、ヨーロッパ先進国のように国策としての脱炭素社会や国民の健康や都市の交通安全の見地から『公共交通の利用促進策として「乗って残そう公共交通国民運動」』を展開することを強く要望したい。

国を挙げての公共交通の利用促進策と公有民営や公有民託の推進で、万年赤字経営で延命的に維持されている地域公共交通の事業体質を、黒字で健全に経営出来る公共交通事業山木として復活し、収益力を回復することで、雇用条件の大幅な改善による乗務員不足問題の解決や先進的な公共交通のDX化やEV化やバリヤフリーなどの先進的な投資を図ることが出来るようになり、「エコ公共交通大国日本」を築き上げることが出来るようになるだろう。