EUのTOD(Transit-Oriented Development)調査団が来訪!
=歓迎挨拶=
(一財)地域公共交通総合研究所
代表理事 小嶋光信
ようこそ岡山へ。心から歓迎申し上げます。
私は両備グループの代表であり地域公共交通総合研究所の代表理事の小嶋光信と申します。
まず最初に、EU委員会の皆さんに欧州の1000以上の都市に採用されているSUMP(Sustainable Urban Mobility Plan)の日本語での翻訳権を当総研にいただいて出版できたことは大変感謝に堪えません。これからの日本の公共交通にとって大変役に立つ公共交通計画のプラットフォームだと思います。
私どものグループは1910年にできた西大寺鐵道が母体です。しかし、西大寺鐵道は60年ほど前に旧国鉄赤穂線がほぼ平行に引かれたことによってその使命を終えました。
そして、先輩たちは未練なく鉄道事業を廃止するとともに、その当時、新しい事業であったバス事業に将来をかけました。
その時から両備グループの多角化の芽ができたのです。実は、廃止したその鉄道会社の約40名の社員を1人も解雇せず、雇用を守るために新しい事業を手がけていったことで、結果として現在のグループ43社、社員総数約8,200人の企業グループとなったのです。
また、30年ほど前、そのバス事業や地域公共交通もマイカーと少子化で赤字事業になると予見し、4つの事業部門と1つの社会貢献部門を作ってグループの経営力の補強をしていきました。
一つは「トランスポーテーション&トラベル部門」です。
鉄道、軌道、バス、タクシー、フェリー、物流事業、観光事業等ほとんどの交通事業をやっています。イギリスのアニメをリアル化したチャギントン電車やたま電車、たまバス、キリンのタクシー等々の楽しい乗り物でお客様を増やしています。我々は世界で最も楽しい乗り物が走っている町を創ろうとしています。
もう一つは「ICT部門」です。西日本最大のソフトハウスの一つであるICT部門で、公共交通のバスロケーションシステムや、タクシー配車システム、乗務員の健康や安全のチェックシステムを開発して、公共交通のバックアップをしています。
次に「暮らしに関する事業部門」です。
そして、4つ目は「まちづくり部門」という地域開発の部門です。
皆さんが今晩会食をする「杜の街グレース」というエリアは、他社の大きなスーパーマーケットが経営撤退し、その跡地の開発として約4ヘクタールの土地を引き受けて新しい都市の魅力を創っています。もちろん、高速バスと市内バスのバスターミナルもあります。このまちづくり部門で岡山市中心部に高層のアパートメントを開発し、郊外居住から市内居住へと誘導し、スプロール化した街から中心部の賑わいを取り戻す運動をしています。
その他に、「社会貢献部門」として美術館を運営する財団と、文化・芸術・教育の研究や生物学の研究に助成する財団等があります。
我々がこれだけの企業グループとなったのには、秘訣があります。それは「忠恕」という経営理念です。これは「真心からの思いやり」という意味です。つまり、思いやりを会社の経営理念としています。その思いやりを礎として「社員の幸せ」を図り、両備グループでは社員の雇用を守ることを第一としています。したがって、会社ができてから113年の間、どんなに不況でも社員を解雇したことはありません。人材が余れば、その人材を活用した新しい事業を開発していったのです。そして、その新しい事業が成長することによって、利益のない公共交通事業を地域の人々の暮らしのために維持できるよう図っていったのです。
これらの歴史を見てみれば、両備グループは公共交通事業が苦境に陥れば陥るほど新しい事業を開発し、大きくなってきたということがお分かりになると思います。
日本はヨーロッパと異なり民設民営で公共交通が発達してきましたが、マイカー時代の進展と少子高齢化による利用客の減少から今日では地域公共交通は日本のシステムでは維持できないと思っています。そこで、両備グループでは20年来このヨーロッパ型の公設民営というシステムを導入することで全国各地の多くの地域公共交通を再建しました。
その一つが和歌山電鐵で、楽しい電車と「たま」という猫を助けるために駅長にしたことが、お客様が増えることとなり鉄道が再建できました。実は、世界の猫たちが復権したのは私のアイデアでこの「たま駅長」が生まれ、たま駅長が懸命に地方鉄道の再建に頑張ったというエピソードが世界に伝わったからです。
この和歌山電鐵の再建が契機となって、日本で地方鉄道維持へ向けた「公有民営」という制度ができました。
このように、多くの公共交通の再建をしながら日本の交通関係の法制度の改革に取り組み、「地域公共交通活性化再生法」と「交通政策基本法」という2つの法律ができました。
この20年来、日本の地域公共交通の約8割が赤字事業でしたが、このコロナ禍でほぼ100%赤字事業になりました。現在、我々は次の時代にサステナブルに公共交通を維持するためには抜本的な改革が必要であるとし、「国の法制度の改革」と、「地域公共交通を維持する財源の確保」と、「乗って残そう公共交通国民運動」での利用促進を提言し、公共交通を維持するために努力しています。
そして、日本には地域公共交通のコンサル会社がないので、10年前に両備グループのシンクタンクとして地域公共交通総合研究所を設立し、日本の地域公共交通を守ろうとがんばっているところです。
今回のご訪問で、日本の民設民営によるTOD(Transit-Oriented Development)がEUの皆さんにいささかでも参考になれば幸いです。我々もEUのSUMPやTODの活動を参考にさせていただいて、今後も「公共交通利用で歩いて楽しいまちづくり」を推進していきたいと思っています。
ありがとうございました。