The Research Institute for Local Public Transport

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緊急提言第5弾 政府はコロナ禍の大規模災害ともいうべき事態に際して交通機能維持のため財政上の特別措置を講じるべきである。
―緊急アンケートで公共交通はコロナ禍で1年もすれば5割が経営維持困難と判明―

(一財)地域公共交通総合研究所
代表理事 小嶋光信

結論

交通政策基本法第13条の法制上の措置等で「政府は、交通に関する施策を実施するため必要な法制上または財政上の措置その他の措置を講じなければならない」と定められていることから、政府は不可欠に業務を行う方針としていた交通事業の4月~9月までの3兆円の損害や地方公共交通の2,076億円の損害は大規模災害に準じた交通網維持のために国1兆円、自治体1兆円、交通事業者の経営努力での1兆円、少なくとも地方公共交通では国、自治体、交通事業者がそれぞれ700億円に対応する生活交通機能維持の緊急支援策を講じるべきである。

当総研では地方公共交通のコロナ禍での経営環境の変化がいかなる問題をはらんでいるか緊急にアンケート調査をして11月25日に結果を発表した。

その結果は惨憺たるもので、約9割の企業が30~90%も輸送人員と売り上げが減少した結果、既に9月までに1割以上の企業が債務超過に陥り、約4割の企業が永年積み立てた剰余金を半分以下に減らし、この状況が2021年度末まで続けば5割の企業が事業継続できない可能性を示唆している。

このため約9割の企業が政府の支援を求め、約8割の企業がこの災禍は国、自治体、企業が3分の一ずつ応分に負担するようにしてほしいと求めている

2020年4月7日に緊急提言の第一弾を発信した際、今日の事態を予測し、第二弾では新型コロナ対策は1兆円以内でも克服できる方策を論じ、第三弾では地方公共交通の災害規模は海陸をあわせて346億円/月、6か月間で2,076億円規模と推定し、第四弾では不可欠な業務として遂行した結果が財政的に救われる道が乏しいことを論じた。

そして、中国運輸局は6月3日に、また各地方の運輸局もこぞって地方公共交通の窮状の実態と支援の必要性を論じた結果、地方創生臨時交付金などで新型コロナウイルス感染症防止対策や運行支援などの支援ができる道を模索し努力してくれた。

しかし、交通に関する国交省はじめ国の具体的な支援は「新たな日常づくり」の138億円の支援にとどまった。

関係各所のご努力には感謝するが、3兆円ともいう交通業全体の被害額や地方公共交通の2,076億円の損害に比しても異常に少額であることが分かる。

このコロナ禍の中での運行維持による大幅減収への国の支援は「赤字補填」か?

コロナ禍において国は地方生活交通にも「赤字補填」はしないというような流れを感じるが、具体的にそのような国の方針を調べてみた。

どうもその根拠は、内閣府地方創生推進室が臨時交付金の使途に関して、地方自治体へ各種事務連絡を出しているが「事業者への損失補償」についての取り扱いについての文書は添付の令和2年5月1日に発出している「事務連絡」の中の3ページ2.交付対象事業(制度要綱第2関係)の⑤事業者等への損失補償の項で「事業者等に対する施設の使用の使用制限、催物の開催の制限等の要請・指示に伴い生じる損失を補償する目的で行う支出経費には、交付金を充当しないこと」と書かれており、これが損失補償には使えないと曲解された根拠文書であると思われる。

しかし、地方生活交通や公共交通全般が被った損害は、上記の損失補償とは全く異質なものであり、これをもって地方生活交通のコロナ禍での災禍ともいえる赤字への損失補填をしないということにはならない。

  • そもそも公共交通は、政府の新型コロナウイルス感染予防対策に対する「基本的対処方針」で緊急事態宣言下でも国民の生活や経済の安定確保のために不可欠に業務を行う事業者として休業要請の対象外に指定された。そのため交通事業者は大減収を覚悟しつつも運行の維持を図り、当総研の調べでは、利用者が大幅に減少する中にあっても6割程度は平常運行を継続し、残り4割も減便での運行(運航)を維持しており、本来なら大幅減便などで支援を受けられるであろう対策を敢えて取らなかった。それ故に、雇用調整助成金(新型コロナ特例)も受けられず、大きな支援の道が開かれなかった。
  • 交通政策基本法で、交通機能の確保として国ならびに自治体の責務が規定され、また大規模災害での交通機能維持として、交通機能の低下や迅速な回復への配慮などが謳われている。今回のコロナ禍での大減収は自然災禍に準ずる大規模災害に指定されるべきものであり、国の財政規模からして歴史上かつてない大規模な災害といえる。

これらのことは交通政策基本法の中にしっかりと規定されている。

すなわち国は交通政策基本法第8条に基づき、交通に関する施策を総合的に策定し、これを実施する義務を負っているところ、その具体的な施策内容を定める法第21条においては、交通事業者の事業基盤の強化を国が実施すべき施策に含まれると明記しており、これはこれまでの提言で繰り返し述べてきたことに合致するものである。

また、法第22条では大規模な災害が発生した場合における交通の機能低下の抑制及びその迅速な回復を図ることを国が実施すべき施策であると明記されているところ、新型コロナに関する新型インフルエンザ等の特別措置法においては、災害対策基本法の条文が多く引用されており、災害対策基本法との連携を図るべきとする条文も存在している。

これは、とりもなおさず立法者は、コロナ禍を災害と認識していることを意味する。

  • このように、大災害ともいえるコロナ禍で「不可欠に業務を行う事業者」として運行維持を政府方針で指示され、その結果の赤字が国として支援できないというのは、苦境の中で必死に戦っている交通事業者の後ろから鉄砲を撃つに等しい行為といえる。これは赤字補填ではなく、大災害下における運行に対して、国が交通政策基本法に基づきとるべき施策である交通維持、路線維持の支援であり、赤字補填はしないという平常時の概念で切り捨てるべきものではない。
  • おまけに、交通政策基本法第13条の法制上の措置等で「政府は、交通に関する施策を実施するため必要な法制上または財政上の措置その他の措置を講じなければならない」と規定されていることに対する重大な違背であるともいえる。

従って、政府は交通事業の3兆円の損害や地方公共交通の2,076億円を精査し、国1兆円、自治体1兆円、交通事業者の経営努力での1兆円、地方公共交通ではそれぞれ700億円の交通機能を維持するための緊急支援策を強く要望する。当総研の調査でも9割の公共交通事業経営者が何らかの国の支援を切望し、また8割の公共交通事業経営者は国・自治体・事業者で痛みを等しく分かち合い交通機能維持を目指したい考えを示している。

基本法はあくまで基本法であり、理念を謳った法であるといわれる方もいるが、法や政策が基本や理念から外れていれば、それを修正することは国家の義務であり、それが政治であろう。

また「運送法」は「利用者の利益の保護及びその利便の増進」が目的で、交通事業者の利益は保証したものではないという方もいるが、「健全な事業者」の維持が図られず、そもそも交通の供給がなくなってしまえば利用者の利益も利便も損なわれる結果となる。

「生活交通の維持こそが利用者の利益」という時代の変化を理解すべきだと提言する。

今回の緊急事態で8割以上が赤字であった地方公共交通事業者は、アフターコロナでもリモートワークや自転車などの通勤形態の変化等によって新型コロナウイルス以前の状態に戻るとは考えにくく、最悪の場合、事業者の10割=全てが赤字となるであろう。

このままでは、今期末までに1~2割程度の事業者が債務超過となり、赤字解消のめどが立たない。

全国の公共交通事業経営者を対象とした調査でも、何らかのきっちりした支援がないと約半数の交通事業者が来年度いっぱいで経営維持が困難になる可能性があることが明らかになった。大手では国有化もささやかれるほどの重大な被害を受けている事業者もある。この交通業界全般にわたる、日本の交通維持、生活交通網維持に甚大な影響を与える事態に軽々しく「赤字補填はしない」という表面的方針のみで対処して、交通業界を「角を矯めて牛を殺す」事態にならないよう心から念じ、早急な財政的措置を要望する。

参考:交通政策基本法 抜粋

(目的)
第1条 この法律は、交通に関する施策について、基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることにより、交通安全対策基本法(昭和45年法律第110号)と相まって、交通に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図ることを目的とする

(交通の機能の確保及び向上)
第3条 交通に関する施策の推進は、交通が、国民の日常生活及び社会生活の基盤であること、国民の社会経済活動への積極的な参加に際して重要な役割を担っていること及び経済活動の基盤であることに鑑み、我が国における近年の急速な少子高齢化の進展その他の社会経済情勢の変化に対応しつつ、交通が、豊かな国民生活の実現に寄与するとともに、我が国の産業、観光等の国際競争力の強化及び地域経済の活性化その他地域の活力の向上に寄与するものとなるよう、その機能の確保及び向上が図られることを旨として行われなければならない
 交通の機能の確保及び向上を図るに当たっては、大規模な災害が発生した場合においても交通の機能が維持されるとともに、当該災害からの避難のための移動が円滑に行われることの重要性に鑑み、できる限り、当該災害による交通の機能の低下の抑制及びその迅速な回復に資するとともに、当該災害の発生時における避難のための移動に的確に対応し得るものとなるように配慮しなければならない。

(国の責務)
第8条 国は、第2条から第6条までに定める交通に関する施策についての基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、交通に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
 国は、情報の提供その他の活動を通じて、基本理念に関する国民等の理解を深め、かつ、その協力を得るよう努めなければならない。

(地方公共団体の責務)
第9条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、交通に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

(交通関連事業者及び交通施設管理者の責務)
第10条 交通関連事業者及び交通施設管理者は、基本理念の実現に重要な役割を有していることに鑑み、その業務を適切に行うよう努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する交通に関する施策に協力するよう努めるものとする。

(法制上の措置等)
第13条 政府は、交通に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

(日常生活等に必要不可欠な交通手段の確保等)
第16条 国は、国民が日常生活及び社会生活を営むに当たって必要不可欠な通勤、通学、通院その他の人又は物の移動を円滑に行うことができるようにするため、離島に係る交通事情その他地域における自然的経済的社会的諸条件に配慮しつつ、交通手段の確保その他必要な施策を講ずるものとする。

(運輸事業その他交通に関する事業の健全な発展)
第21条 国は、運輸事業その他交通に関する事業の安定的な運営が交通の機能の確保及び向上に資するものであることに鑑み、その健全な発展を図るため、事業基盤の強化、人材の育成その他必要な施策を講ずるものとする。

(大規模な災害が発生した場合における交通の機能の低下の抑制及びその迅速な回復等に必要な施策)
第22条 国は、大規模な災害が発生した場合における交通の機能の低下の抑制及びその迅速な回復を図るとともに、当該災害からの避難のための移動を円滑に行うことができるようにするため、交通施設の地震に対する安全性の向上、相互に代替性のある交通手段の確保、交通の機能の速やかな復旧を図るための関係者相互間の連携の確保、災害時において一時に多数の者の避難のための移動が生じ得ることを踏まえた交通手段の整備その他必要な施策を講ずるものとする。

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