「特別寄稿:地域公共交通ネットワーク再構築への提言シリーズ」
から垣間みることができる地域公共交通の危機と解決策

(一財)地域公共交通総合研究所
代表理事 小嶋光信

今回は全国各地でリーダー的な活躍をされている地域公共交通事業者5社のトップからコロナ禍の現状に対して国や自治体はいかなる対応をすべきか等についての提言を令和5年3月末までにいただいた。

その5氏とは、九州地区から熊本都市バスの高田普社長、四国地区から伊予鉄グループの清水一郎社長、中国地区から広島電鉄の椋田昌夫社長、東北地区からヤマコーの平井康博社長、北海道地区から北海道中央バスの平尾一彌会長で、皆さん多忙な中ご寄稿くださった原稿の要旨を纏めてみた。

本当に長年に亘って現場で地域公共交通事業を経営されてきた経験と実績を基にしたご意見等から、今回のコロナ禍による地域公共交通の危機的状況と国や自治体が早急に対策をせねばならないという問題点が改めて明らかになった。

A.コロナ禍における現状認識

バス事業は、コロナ禍以前から人口減少(少子化、高齢化)を背景に乗合バスの利用者減が進む一方で人手不足問題や働き方改革、DX推進、路線補助金制度の課題等々を抱え、公共交通である乗合事業は近年地方では赤字が常態化した事業となっていた。

更にこのコロナ禍で、バス事業(乗合・貸切)の減収は業界がかつて経験したことのない甚大なものとなり、経営の体を全く成さない状況となっている。これまでの経営のあり方では事業の持続・継続が困難なほど計り知れない多大な損害を受けているが、特に地方や北海道などは、人口密度や少子高齢化の問題が重大で、三大都市圏とは大きく異なる状況になっている。

ウイズコロナのみならず、アフターコロナにおいても非接触社会等で人々の行動が変容し、バス利用者がコロナ禍前の1~2割は減少するという厳しい見方が共通認識となっている。

しかし、実際の赤字額と自治体からの補助額には大きなギャップがあり、コロナ禍中では借入金等で凌いでいるのが現状といえる。今後は、民間事業(株式会社などの企業組織)としては交通事業が赤字でもグループ全体で利益を出しているならいいだろうという訳にはいかない。従って、地域のために公共交通がなくてはならないのならば、国や地域も応分の負担をしていかないと持続可能にはならないといえる。

規制緩和以前は、公共交通という乗合バス事業を担っていた会社が貸切バスも運行しており、その利益の内部補助で乗合バス事業の赤字を埋めていたが、このコロナ禍で貸切バスも赤字となり賄えなくなってきた

今回のコロナ禍で乗合バス事業者は、地域住民や利用者に配慮して極力減便等もせず運行を続けたこともあり、国へもエッセンシャルサービスとして路線維持への協力を要請したにも拘わらず、バス事業者への政策的配慮はなかった。旅客数が激減していることを知りながら、国の要請に従って運行すれば雇用調整助成金は得られず、結果として受給はほとんど受けられなかった。コロナ禍対策の地方創生臨時交付金等の給付金は有難かったが、総人件費の4~5%にすぎず、今日の危機的な非常事態に対し全く不十分であるし、窮状を各地の業界団体から雇用調整助成金に相当する金額の支援を求めて要望行動を繰り返したが、要望行動は国(政府)には届かず、誠に残念だと感じている事業者が多数いるといえる。

持続可能な地域公共交通として、バス事業者が現状で抱えているのは「ビジネスモデルが赤字化した経営の壁」と「人手不足」という深刻な問題で、現行の制度では乗合バスを中心とする公共交通は人にも設備にも投資が進まず縮小する一方となり公共交通が不便になる。その結果、利用者が減少してますます公共交通が不便となり住み難い地域となる。不便な地域から住民が出ていくことで地域の衰退を招くという悪循環は止まらないだろう。
B.要望と提言事項
大きく分けて要望・提言事項は、1.運賃制度の在り方、2.交付税や補助金の在り方、3.人手不足の問題、4.環境問題、5.安全対策、6.制度改革と新たな行政支援の6点に絞ることができる。

1.運賃制度の見直しが急務といえる

運賃の決定は「総括原価方式」により計算されるが、本来の赤字額と算定額に大きな開きがあり実態の原価を反映するように運賃認可制度の見直しが必要といえる
30~40年前から実態は原価(標準原価)を賄う運賃改定にはなっておらず(赤字申請)、運賃値上げに伴う旅客の逸走防止などで本来、受益者負担を原則としながらも、運賃改定をしても所要の増収を確保できない場合がほとんどで、次第に乗合バス事業の経営を圧迫してきた。

地域においては、市民と交通事業者、自治体が主導する法定協議会などで速やかな運賃変更が行われるよう改正すべきだ。

キロコストの安い郊外バスがキロコストの高い市内バスに低運賃で競合し、市内でダイヤの輻輳という環境対策への問題もからみ、市内バスの経営を圧迫しているという問題が窺え、市内運賃の初乗り運賃などに沿って郊外バス運賃を調整する運賃制度で無ければ、地域路線のネットワーク再構築は出来ない。

2.交付税や補助金の在り方を大幅に変更せねば、地域公共交通は維持できない

地域公共交通特別交付税は、「バス交通特別交付税」のように自治体に交付された金額がそのままバス事業者の支援に直接行き届く仕組みが必要

現状の補助金制度では赤字路線の維持はできないので、必要経費を償えるように改革が必要

③「補助対象事業の基準(輸送量一日当り15人以上)を満たさない」という全国一律の基準では、輸送密度や路線競合などの地域公共交通の実情にそぐわず見直しが必要

④地域間幹線バス路線補助金は、過去3年間の平均値を用いた事前算定方式だが、これでは人件費アップや設備投資に対応できず、複数年度・地域包括委託などの方式を可能とするような補助方式の見直しが必要

地域間幹線バス路線の補助限度額は、該当路線に係る総費用の20分の9までとなっていて、20分の9を超える欠損は運行バス会社負担となり、それでは赤字路線の維持はできないので、赤字補填という施策から適正な利益・適正な運賃で運行するためには、どのくらいの運行経費が必要なのかを算定し、乗合事業バス会社に委託するという施策へと転換しなければ維持できない

補助金は欠損に対する補填をみて利益への貢献がないため、設備投資や人件費のアップができず欠損を少なくすることで精一杯となっている。利益をみるなどの改正が必要

3.人手不足は深刻で、2024年問題もあり早急な改善をしないと路線維持ができない

人手不足は非常に深刻で、早急に待遇改善を図るべきだ
乗合バスに外国人労働者の乗務を許可する時期に来た
過疎地帯では乗合バス会社に普通免許所持者の登用ができるように緩和すべき
バス乗務員はまず乗合バスを経験して、高速バス、貸し切りバスと所得が上がるようにキャリアアップしていくようにしないと夢がなく人手不足は解消できない
2024年の労働基準改革(働き方改革)によって運転手不足がますます深刻になる。この対策をどうするか国の施策が緊急に必要
4.環境問題

カーボンニュートラル推進のためにも、公共交通の利用促進など国からの支援を更に加速する必要がある
②市内バスと郊外から都心部に直接乗り入れるバスが重複して運行している地域では、輸送力が過剰となっており、効率的な運行便数にすることは経営上も環境問題からも急務
環境とSDGsの観点から、県や市町村の職員(公務員)が率先して公共交通機関を利用していくことも必要
5.安全対策

運行管理者制度を更新制にするなどの制度の見直しが必要
運行管理ができていない悪質なバス事業者が市場から確実に退出する仕組みを国は早急に構築すべき
貸切バスの国の定めた運賃体系を守らない事業者に対し改善命令や許可取消し等の積極的なアクションが必要
④乗務員の質の低下を招き、大事故につながる事実上の貸切バスの運賃ダンピング(キックバックの上限設定などの規制強化)での値引き合戦による低運賃化を直さない限り大事故はなくならない
⑤貸切バスの安全上、まず乗合バスを経験してキャリアを積み、貸切バス運転の社内認定を受けて初めて貸切バス運行ができるという手順が必要

6.制度改革と新たな行政支援

現行の制度では地域公共交通であるバスも地方鉄道も事業継続はできない
②地域でのサステナブルな公共交通事業の維持には、交通事業者間の連携強化と行政との緊密な関係構築による交通政策の展開は不可欠
③交通モードを超えた連携の実現によって、行政との関係もさらに密接になる(タクシーや軌道事業者など他の交通モードへ参画を求める)
④壊滅的状況となった乗合バス事業の代替え策として、コミュニティバスやデマンドバスといった方式が全国各地で運行されているが、ここにも入札という関門があり、入札に参加してくるのは利益が出る路線のみで、補助金があっても赤字路線には参入してこないのが実態
⑤バリアフリー法の公共交通移動等円滑化基準により、小型バスによる路線バス運行に制限があるが、市町村で運行されている小型バスには適用されていないため同等に改善を要望する
通学定期への行政補助の創設
利用促進と道路混雑解消へむけて行政が中心となり、ナンバープレート制などのTDM施策やMM策をあわせて実施してほしい
C.結論:競争から協調へ

公共交通維持のためには、現行制度では無理であり、現在の赤字補填というシステムからの脱却を図り制度そのものを変更していく時期にきている 
「日本型公共交通」の良さを生かしていきたい
③地方の公共交通を担ってきた各事業者が「競争」ではなく「協調」に向けて舵を切ることが必須
公共交通を地域のインフラ整備と位置付け、地域住民が利用しやすい運賃体系にしていく必要がある
地域公共交通の各論は、まちづくりと一体で考えるべきであり、地域ごとに状況が異なり政策も異なるため権限と財源のセットの移譲ができて初めて地方圏を守る持続可能な地域づくりとして公共交通が活きるのではないか

以上が各氏からの要望と提言の要旨であり、まさに現状での結論ともいえる。

当総研では、30年来赤字化した地域公共交通を現行の補助金制度だけで支えることは、既に限界に達していると分析し、①運送法など制度改革と法整備、②地域公共交通を支える財源の確保、③国民が公共交通を利用する国主導での運動「乗って残そう公共交通国民運動」を提唱しているが、各氏の議論も概ねその提言に沿っているといえる。

現時点では、国や自治体、市民、交通事業者が皆、等しくこのままの状態で地域公共交通を維持するのは無理というコンセンサスができているといえ、変革への大きなうねりを感じている。今回の改革は思い切って将来を見つめて、地域を支えるインフラとしての公共交通がサステナブルに維持・発展していけるような抜本的な改革が必要不可欠な時期に来たといえるだろう。