運輸総合研究所が『~地域交通革新~』を提言として発表!
(一財)地域公共交通総合研究所
代表理事 小嶋光信
(一財)運輸総合研究所が「地域交通産業の基盤強化・産業革新に関する検討委員会」を主宰し、コロナ禍の真っただ中の令和4年11月16日に開催した第1回委員会から集中的に討議して令和5年6月19日の第4回委員会で問題点の集約を図り、この9月14日に『~地域交通革新~』として今後の地域公共交通のあり方を示唆する提言が発表されました。
地域公共交通は、①万年赤字体質、②運転手・人材不足、③燃料高という経営の三重苦の上に3年余に及ぶコロナ禍でその多くは今後10年以上、否、少なからず永久にその債務を利益返済できない危機的な状況に陥っています。
昨年2月には、JR西日本が「輸送密度2,000人未満」の30線区の赤字を発表し、大問題化していますが、これはJR西日本だけの問題ではなく日本中の地方にある地域公共交通の問題となっています。地域交通は少子高齢化などの地方の衰退で将来的に継続が難しい上にコロナ禍が拍車をかけ、乗務員不足と燃料高で事業存続が崖っぷちに立たされているのです。もはや、抜本的な解決以外に救う手立てはありません。
この検討委員会には、私も委員の一人として参加させていただきましたが、国の地域公共交通がピンチという緊急性に鑑み、地域公共交通に造詣の深い委員による熱心な討議で委員会開催からわずか10か月で提言が纏まったことは極めて意義深く、またスピーディーかつタイムリーな提言になっていると思います。
今回の提言は、地域公共交通を
- 持続可能な社会の実現に必要な公共財と位置づけ
- 利便性の高い地域交通は生活の質(QOL)を向上させ地域の価値を向上させる
- 現状の赤字補填では地域交通の確保は困難で、現行制度は限界
- 現行制度の抜本的な変革で法制上・財政上の措置を、時機を逸することなく実行する段階
と分析し、現行の道路運送法の基本理念に加えて「公正で秩序ある競争を通じた利用者利便の確保が重要」で「事業自体の確保・維持継続等その存在自体が法目的実現の前提で必須」だと位置づけて、「競争から協調へ」と大きく舵を切って将来の地域公共交通のあり方を抜本的に革新する「意識改革・制度革新・地域交通革新」を提言していることが大きな特徴と言えるでしょう。
運賃やクリームスキミング問題や、日本の民営を維持しながら準公有民営の制度提案や財源の在り方など地域公共交通の実情に即した提言が込められています。
特に、千差万別の地域公共交通を地域のエリア・カテゴリー分類で、
A:民間によるサービス供給が、公的補助がなくとも商業ベースの競争などで利便性の向上が期待されている地域カテゴリー
B:民間によるサービス供給が行なわれているが、一定の公的補助が必要な地域カテゴリー
C:民間によるサービス供給が成立しない地域カテゴリー(過疎法認定地域など)
に分けられて、ともすれば大都市での議論が中心になることが多いのですが、Aはほんの一部であり、大多数のBとCについての議論が非常に明確になっています。
ここで初めて地域交通に抜本的なメスが入り、持続可能な社会を実現するために必要な地域公共交通産業の基盤強化であり事業革新が示された意義は大きいといえます。
当地域公共交通総合研究所では、「法改正」「財源確保」「乗って残す利用促進」の3本柱のセットによる抜本的改革を主張していますが、まさに今回の運輸総合研究所の提言は、地域公共交通問題を的確に捉えていると思います。この提言が早急に実現されるように制度化、法制化が進むことを期待しています。
・~意識改革・制度改革・地域交通革新!~
https://www.jttri.or.jp/research/transportation/ishikikaikaku.pdf
・地域交通産業の基盤強化・事業革新に関する検討委員会「提言」(概要版及び補足資料)
https://www.jttri.or.jp/research/transportation/gaiyo_hosoku.pdf
・地域交通産業の基盤強化・事業革新に関する検討委員会「提言」(参考資料)
https://www.jttri.or.jp/research/transportation/sankou.pdf
・地域交通産業の基盤強化・事業革新に関する検討委員会「提言」
https://www.jttri.or.jp/research/transportation/teigen.pdf