地域公共交通の経営実態調査報告と抜本的改革の必要性の高まり
~ 表面的な回復の裏に潜む「路線の消滅」~

(一財)地域公共交通総合研究所
代表理事 小嶋光信

コロナ禍以降の運賃値上げにより、経営数値上は一時的な回復が見られるものの、実態は旅客の減少と深刻な運転手不足による路線廃止が加速しており、地域公共交通はかつてない危機に瀕しています。今こそ、付け焼刃ではない抜本的な改革が必要です。

1.調査の概要

第10回目となる本経営実態調査は、コロナ禍を乗り越え、一見小康状態にあると見られる地域公共交通の「真の実態」を浮き彫りにすることを目的としました。
新要素: 記述式回答による実態把握の深掘りに加え日本銀行短観と同様の拡散指数(DI:Diffusion Index)方式を用い、足元および先行きの業況を数値化した「公共交通DI」を新たに導入しました。
対象: 全国のバス、民営鉄道、旅客船事業の各業界団体に加盟する1,065社
回答: 184社(回答率 17.3%)

2.調査で判明した3つの重要事実

アンケートの結果、半数以上の事業者が運賃改定を実施し、表面上の収支は改善傾向にあります。しかし、その内実を紐解くと以下の深刻な課題が浮き彫りとなりました。

  • 利用者の未回復: 輸送人員はコロナ禍前の水準まで戻っていない。
  • 三重苦の深刻化: 「慢性的な赤字体質」「人手不足」「路線の維持困難」という3点は、以前よりも厳しさを増している。
  • 独自インデックスによる業況悪化の可視化: 日銀短観(運輸・郵便部門)では業況判断DIが横ばい~堅調な水準で推移している一方、公共交通に特化した今回の調査結果では、業況判断および従業員不足感が極めて悪い数値を示した。

3.加速する路線廃止の推移

現在、交通空白地域が社会問題化していますが、それ以上に「赤字体質の常態化」「2024年問題(残業規制)」「運転手の高齢化」が維持の限界を招いています。

  • 2022年度: 1,598km バス路線減少(コロナ禍による影響)
  • 2023年度: 2,496km 同 (運転手不足の深刻化により前年度の1.5倍超)
  • 2024年度: 2,500km 同 (予測/2024年問題の開始)
  • 2025年度: 高止まり継続と予測 同 (高齢化・大量退職による維持限界)
    ※2022年度、2023年度路線廃止距離は国土交通省自動車局調べ

4.抜本的改革の必要性の高まり

昨年、私は(一財)運輸総合研究所会長とともに、当時の国交大臣および総理大臣に対し運輸総研でまとめた「地域公共交通の革新案(緊急提言)」を提出しました。しかし、政局の変動もあり、十分な社会的インパクトを与えるには至りませんでした。

現在、地域交通法の一部改正も議論されていますが、現状の危機は個別事案への対処で解決できるレベルではありません。

  • ビジネスモデルの転換:事業者の声にも「財源・補助」への改革が数多く寄せられています。赤字体質を前提とした補助金制度に加え、「公設民営」や「公設民託」など経営努力すれば黒字化する制度へ移行すべきです。
  • 売上高は増加していますが「運賃改定」に依存しています。運賃改定にも上限が存在します。そのためにも早急な構造見直しが必要なことは明らかです。
  • 法体系の抜本改正: 交通政策基本法に則り、道路運送法をはじめとする交通関連法規を 根底から見直す必要があります。
  • 社会的インフラとしての再定義: 公共交通は損益だけで存廃を決めるものではなく、国民のQOL(生活の質)を支える基盤です。

5.将来に向けた財源確保と国家安全保障

暫定税率等の財源から2,000億円程度を確保することで、現状の維持に留まらない「公共交通先進国」への転換が可能です。バリアフリー化、EV化、自動運転、キャッシュレス対応、全国ネットワークのDX化を強力に推進すべきです。

また、有事の際の「兵站(ロジスティクス)」を支えるのは民間の交通網です。公共交通の維持は、国の安全保障に直結する緊急の国家的課題であるという認識が、今こそ国に求められています。

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