第11回公共交通経営実態調査
「一難去ってまた一難」、公共交通の抜本的改革が急務

(一財)地域公共交通総合研究所
代表理事 小嶋光信

本調査は、全国のバス・民営鉄道・旅客船事業者の経営実態を継続的に把握し、ファクトを明らかにし、皆で公共交通の将来への対策を考えることを目的として実施してきました。
第11回となる今回は、全国の業界団体加盟1,061社を対象に調査を行い、208社からご回答をいただきました。ご協力いただいた事業者の皆様に深く感謝申し上げます。

今回の調査結果を一言で表すならば、「一難去って、また一難」です。

新型コロナウイルス感染症という未曽有の危機は収束しました。しかし、その後に待ち受けていたのは、人口減少、運転士をはじめとする深刻な人手不足、物価高騰、そして路線維持の限界という、より構造的な課題です。象徴的なのが、全国の一般路線バス廃止距離の急増であり、2024年度には3,887kmと2015年度と比べて約3倍に達しました。廃止キロは2023年度から急速に増加しており、地域公共交通は、今まさに存続の分岐点に立っています。

全国の一般路線バス廃止キロ数の推移

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年度2015201620172018201920202021202220232024
廃止キロ(㎞)1,3128831,0901,3061,5141,5431,4871,5982,4963,887
出典:国土交通省「交通政策白書」

今回の調査からは、特に三つの重要な実態が明らかになりました。

第一に、コロナ禍から日常利用が十分に回復していないことです。観光需要は一定の回復を見せる一方、通勤・通学を中心とした基礎的需要はコロナ前の水準に戻らず、事業基盤の弱体化が続いています。

第二に、慢性的な赤字体質、人手不足、路線維持の困難さが、前年にも増して深刻化していることです。人材確保は依然として最大の経営課題であり、公共交通サービスの維持そのものが危機に直面しています。

第三に、一般の景況感との大きな乖離です。日本銀行短観では運輸・郵便業の業況判断DIは堅調とされる一方、本調査では公共交通事業者に限れば、業況判断・従業員不足とも極めて厳しい結果となりました。公共交通は、物流や航空を含む運輸業全体とは異なる構造的課題を抱えており、独自の政策対応が不可欠であることが改めて浮き彫りになりました。

こうした危機感から、昨年、(一財)運輸総合研究所が取りまとめた「地域公共交通の革新案(緊急提言)」を国土交通大臣ならびに内閣総理大臣に提出しました。政局の変動もあり、十分な社会的インパクトにはならなかったのではないかと思いましたが、今回の「骨太の方針2026」には、地域の移動確保や交通インフラの持続性に関連する政策が複数の章に散在しており、私は大きな期待を寄せています。

その特徴は、従来の「路線を守る」という発想から、「地域の移動手段を確保する」というより広い概念への転換が図られている点にあります。

第一に、交通空白地域への対応として、デマンド交通、ライドシェア、自動運転などを活用し、地域住民の移動制約を解消する方向性が示されています。これは、地域の移動確保を重視する政策として極めて妥当です。

第二に、社会的割引率の見直しなどを通じて、地域の社会資本の長期的価値を適正に評価する方向性が示されています。費用便益比に過度に依拠しない評価手法への転換は、地域交通インフラの持続性を検討する上で重要な視点です。

第三に、補正予算依存から脱却し、複数年度の投資枠を活用した予見可能性の高い財政支援へ転換することで、事業者が将来を見据えた経営改革に取り組める環境を整備しようとしています。これは、公共交通政策の財源構造を大きく変える可能性を持っています。

これらの政策動向は、「交通手段」「制度評価」「財源」を総合的に捉える政策体系へ向かう動きとして評価できます。地域公共交通の再構築に向けた重要な一歩です。
しかし、制度改革だけでは十分ではありません。公共交通自身も抜本的な経営改革に挑戦しなければなりません。

私は次の五点が重要であると考えます。

第一に、毎年赤字を前提とする経営から脱却し、短期的な補助金制度に加え、中長期的な経営の安定と経営努力を促す公設民営方式や民間委託などを積極的に導入し、持続可能な黒字体質への転換を目指す法体系に移行することです。

第二に、公共交通を国民の生活を支える社会インフラとして位置付け、需給の均衡のもとで健全に発達することが利用者全体の利益につながるという考え方を、制度の中により明確に位置付けることです。

第三に、災害対応や国家安全保障の観点からも公共交通インフラは極めて重要です。有事にも機能する交通ネットワークを構築するため、平時・有事双方で活用できるデュアルユースの考え方を積極的に取り入れるべきです。

第四に、日本の公共交通は、世界に冠たる定時性、安全性、快適性を誇ります。車両だけではなく、運行システム、運行管理、保守技術、交通DXなどを含めた総合的な公共交通システムを、日本の新たな輸出産業として育成し、世界の持続可能な社会づくりに貢献すべきです。

第五に、これらを達成する財源の確保です。地域公共交通は、地域経済を支え、人々の暮らしを支え、災害時には命を守り、国家の安全保障にも直結する重要な社会基盤です。

本調査報告書が、国、地方自治体、交通事業者、そして利用者の皆様が、持続可能な公共交通の未来をともに考える一助となることを心より願っています。

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