足達 英一郎
私は、モビリティという言葉に、「束縛からの解放」という象徴的な意味を感じます。なんら拘束を受けることなく、自由な移動ができることは、人間が人間らしく暮らしていくための重要な構成要素です。一方、世界には、自由な移動を手にしていない人々がたくさんいるということも忘れてはなりません。
さて、日本国内においても、目を凝らすと、思いのままに自由な移動ができない状況があちこちに生じていることに気付かされます。自家用車の普及によって移動のための交通手段に関する利用者の選好が変化してしまったことで、地域公共交通の維持は困難となりました。しかし、いま急速な少子高齢化が進展、地方と大都市の人口偏在が進むなか、そこに暮らす人々が、自由な移動を獲得できない地域が出現しています。将来的には、様々な公共サービスや経済活動へのアクセスが困難となり、「社会的疎外」という事態も懸念されます。また、観光その他の地域間の交流の促進さえも阻害されて、地域活性化の道筋をも閉ざしてしまいます。
地域公共交通の活性化及び再生を推進することは、喫緊の社会課題を解決する糸口を見出す試みに他なりません。では、それを誰が担うのか。もちろん政策的に地域公共交通の活性化や再生の枠組みを作り、適切な支援を行う国や地方自治体の存在は欠かせませんが、公共交通サービスを提供する主体としての企業の存在に改めて期待が集まっているといえるのではないでしょうか。
私はこれまで「社会と企業の関係論」の再構築を目指して、主に環境問題やCSRをテーマに仕事をしてきました。そうした領域でも、いま「社会課題を解決するビジネス」の可能性に注目が集まっています。今回、地域公共交通総合研究所のアドバイザリー・ボード委員を務める機会を得て、研究所スタッフをはじめとする皆さんと、地域公共交通の活性化及び再生への挑戦を進めることで、「社会課題を解決するビジネス」の実証を目指したいと考えています。
所属・役職
株式会社日本総合研究所 理事
研究・専門分野
環境経営
企業の社会的責任
著書、共著書
「図解 企業のための環境問題」(1999年、東洋経済新報社)
「Ethical-ecological Investment: Towards Global Sustainable Development」(2001年, Iko-Verlag fur Interkulturelle kommunikation)
「SRI社会的責任投資入門」(2003年、日本経済新聞社)
「Values to Value A Global Dialogue on Sustainable Finance」(2004年, Greenleaf Publishing)
「CSR経営とSRI」(2004年、きんざい)
「ボーダレス化するCSR-企業とNPOの境界を超えて」(2006年、同文館出版)
「人口減少社会の人づくり」(2007年、日本経済評論社)
「SRIと新しい企業・金融」(2007年、東洋経済新報社)
「地球温暖化で伸びるビジネス」(2007年、東洋経済新報社)
「環境経営入門」(2009年、日本経済新聞出版社)
「進化する金融機関の環境リスク戦略」(2011年、きんざい)
「環境経営で知るべき10の新知識 『炭素リスク』から『自然資本』まで 世界の潮流」(2015年、日本経済新聞社)
「自然資本入門 国、自治体、企業の挑戦」(2015年、NTT出版)
他 多数
経歴
1962年 東京都生まれ
1986年 一橋大学経済学部卒
1986年 株式会社三菱総合研究所 入社
1990年 株式会社日本総合研究所 入社
1999年 株式会社日本総合研究所 主任研究員
2001年 株式会社日本総合研究所 上席主任研究員
2007年 株式会社日本総合研究所 主席研究員
2011年 株式会社日本総合研究所 理事
委員歴
2002年 社団法人経済同友会「市場の進化と21世紀の企業」研究会ワーキング・グループメンバー
2004年 環境省「社会的責任(持続可能な環境と経済)に関する研究会」メンバー
2005年 厚生労働省「労働に関するCSR推進研究会」委員(~2007年)
2005年 ISO26000規格化作業部会日本国エクスパート(~2009年)
2008年 三菱商事株式会社 環境・CSRアドバイザリー・コミッティーメンバー(現任)
2012年 公益財団法人三菱商事復興支援財団理事(現任)
他