家田 仁
地域公共交通の研究所を設立するという。それも、行政や自動車産業あるいは巨大な鉄道会社が作るというのではない。他ならぬ地方の公共交通事業の人たちが中心になってという話である。蓋し、壮挙といえよう。そういう壮挙なら、と手伝う気になった。
わが国の地方都市や人口過疎地域の公共交通のサービス水準は、モータリゼーションの進む中、縮小再生産の一途をたどってきた。そればかりか、人口減少につれて、状況は深刻の度を深めている。事業者や自治体などの関係者は涙ぐましい努力を払ってきたが、残念ながらその大勢を覆すには至っていない。
事態のブレークスルーのためには、いくつかの大きな課題がある。
第一は、国家の政策スタンスの問題である。公共交通というと、質量ともに世界トップ水準と言える東京都市圏の都市鉄道の成功に代表される大都市にばかり眼が行き、ともすると地方都市の公共交通が国家の政策としては看過されがちであった。
第二は、国民の意識の問題である。わが国で交通に関する政治論争というと、「無駄な公共事業論」か、あるいは「必須な命の道」といった、はなはだステレオタイプな論議か東日本大震災にかこつけた心情的な必要論ばかりが目に付く。国民の意識の中で地域の公共交通のプライオリティは高くないのが実態だ。
第三は、チャレンジ精神の問題だ。かつてわが国は様々な公共交通システム開発のリーディングポジションにいた。残念ながら、わが国の地方都市の公共交通は、今や欧米のみならず中進国の諸都市にも大幅に後塵を拝している。「やれることをやればいい」といった「努力に意義」論や、「うちの町にもLRTを」といった世界の動向を知らない「二番煎じ」論では、起死回生は図りえない。
地方の公共交通、難路であることは間違いない。だからこそ努力の甲斐もあるというものだ。
政策研究大学院大学 教授
出 身
1955 年 11 月 25 日 東京都生まれ
学 歴
1978 年 東京大学工学部土木工学科卒業
専 門
交通・都市・国土学
主な担当講義
Infrastructure and Regional Development :Lessons from the Past
Disaster Management Policy
Advanced Disaster Management Policy
学位等
1986年 工学博士
1986年 技術士(建設部門)
2005年 技術士(総合技術監理部門)
職 歴
1978年 日本国有鉄道入社
1984年 東京大学工学部助手
1986年 東京大学工学部助教授
1995年 東京大学大学院工学系研究科教授
2014年 政策研究大学院大学 教授を兼務
2016年 東京大学を定年退職 政策研究大学院大学 専任となる
途中
1988-1989年 西ドイツ航空宇宙研究所交通研究部客員研究員
1993-1994年 フィリピン大学交通研究センター(NCTS)客員教授
2008年 中国 清華大学客員教授に派遣
所属学会・団体
著 書
社会活動
国土交通省・交通政策審議会、社会資本整備審議会、国土審議会等、官庁や自治体関係の都市及び交通プロジェクト等多数