公共交通経営者円卓会議2024を開催しました!
『公共交通経営者円卓会議2024』が7月25日に東京・銀座の時事通信ホールで、主催:(一財)地域公共交通総合研究所 、両備ホールディングス株式会社、共催:株式会社みちのりホールディングス様で開催されました。
会議の様子は以下からご覧頂けます。
■円卓会議ダイジェスト版
■円卓会議YouTube
今回の会議は、全国から800名を超える方々に会場やオンラインで参加いただきました。登壇された6人の方々は“本気の挑戦”をキーワードに、経営者自らの抜本的な改革の断行、「競争」から「協調」への変革などの切り口で熱い議論を交しました。
開催に際しまして後援をいただきました、国土交通省、(公社)日本バス協会、 (一社)全国タクシーハイヤー連合会、(公社)土木学会、(一社)計画・交通研究会、(一財)運輸総合研究所の皆様に心より感謝申し上げます。
あいさつ
小嶋 光信 氏 (一財)地域公共交通総合研究所代表理事
池光 崇 氏 国土交通省公共交通政策審議官
第1部 話題提供
円卓会議に先立ち、4氏からそれぞれ話題が提供されました。
・浅井 康太 氏 株式会社みちのりホールディングス グループディレクター
「みちのりグループにおけるDX/GXの取り組み」
・川鍋 一朗 氏(一社)全国ハイヤー・タクシー連合会 会長
「日本版ライドシェアの導入」
・清水 弘子 氏 くらしの足をみんなで考える全国フォーラム 事務局長
「くらしの足をみんなで考える」
・神田 佑亮 氏 呉工業高等専門学校 教授
「地域・事業者間連携と「学」」
みちのりグループにおけるDX/GXの取り組み
浅井 康太 氏 株式会社みちのりホールディングス グループディレクター
みちのりグループが挑戦しているGXの取り組みは、バスにおけるカーボンニュートラルの達成の必要性、導入のハードルとなる経済性の課題、さらに電気バスに合わせた運行への転換によるコスト最適化とそれに伴う複雑な課題の解決です。
またDXの取り組みでは、自動運転技術の本気の実装と、ひたちBRTにおける現状とその目標で、自動運転技術の実用化までの道のりと既存事業の枠を超えたデジタルインフラとの連携の実現がカギになります。と述べました。
日本版ライドシェアの導入
川鍋 一朗 氏(一社)全国ハイヤー・タクシー連合会 会長
「日本版ライドシェア/公共ライドシェアは、タクシー会社だけでなくこの会場におられる事業者のみなさんもやって欲しい」川鍋氏自身がライドシェアドライバーとなった配信動画を会場のスクリーンに投影しながら、遠隔点呼の仕組み、柔軟な働き方や高時給などをアピールされました。
発表の要旨
「全産業で人がいない、タクシー事業も人がいない、だからライドシェア」みたいに言われています。ライドシェアはアメリカや中国でそれなりに機能していますが、ドライバーには大きな負担が掛かっています。ドライバーと会社、社会それぞれのバランスが良くないといけないと思います。二種免許を保有していない一般の方がライドシェア業務をやってみようという場合、タクシー会社がドライブレコーダーなどの機器を設置して運行管理を行い、一般の方でもやれる時にやることができる仕組みを4月から始めました。
この日本版ライドシェア/公共ライドシェアはやり続けるしかありません。IT企業などでは収益を上げないと株主から撤退を迫られますが、公共事業では撤退はありません。この会場にいるみなさんのような心と魂をもった人間がやらないといけないと思います。
発表資料はYouTubeでご覧いただけます。
くらしの足をみんなで考える ~交通事業者も研究者も自治体も、市民も~
清水 弘子 氏 くらしの足をみんなで考える全国フォーラム 事務局長
くらしの足を守るための原点は移動サービスです。重度の障がいがある方や介護度が高く移動に困っている方の課題を正面から見つめ、地域の人々が自分事として地域の課題に取り組めるような解決策を見つけたいと思います。
神奈川県の場合、現在の人口は約900万人で移動困難者は推計で約90万人にも及び、移動サービスは輸送のプロの取り組みがないと解決しないと述べました。これについて、障がいがあってもひとりで乗れるタクシーを、タクシー協会の協力とタクシー事業者との連携、神奈川運輸支局の後押しで実現した実例が紹介されました。
地域・事業者間連携と「学」
神田 佑亮 氏 呉工業高等専門学校 教授
交通事業者と行政との連携として広島市のバスサービス状況や上下分離の構想、協調・共創のプラットホーム、また交通のミッション定義と共創プロジェクトを活用した実証実験や都市計画との連動やその議論について、また過疎地の地域交通として、JR芸備線を例に需要が非常に少ない交通のあり方が話題提供されました。
「学の意義」としては、専門性・多角的な見方、将来像・ビジョンの設定とそこからのバックキャスト、また現場にない発想も含めた検討や中立性、ペースメイクと場づくり、戦略・戦術を描くこと、そして何かあれば“学のせい”として引き取れること(ただし覚悟もいる)が示されました。
第2部 円卓会議
円卓会議には以下の6人の方々が登壇されました。
・仮井 康裕 氏 広島電鉄株式会社 代表取締役社長
・野村 文吾 氏 十勝バス株式会社 代表取締役社長
・松本 順 氏 株式会社みちのりホールディングス 代表取締役グループCEO
・松本 義人 氏 西日本鉄道株式会社 専務執行役員
・大上 真司 氏 両備ホールディングス株式会社 常務執行役員
・宮島 香澄 氏 国交省交通政策審議会 分科会委員、日本テレビ放送網株式会社 報道局解説委員
円卓会議に先立ち、登壇者それぞれが自己紹介の後、現在本気の挑戦として取り組んでいる事業内容を説明しました。
その後、宮島香澄氏が5人の経営者に質問を投げかけ、全員がそれぞれ考えを述べました。
最後に「これからの更なる挑戦」や「今後力を入れて取り組みたいこと」を、全員がフリップボードに記入して表明しました。
宮島 香澄 氏 国土交通省交通政策審議会分科会委員・日本テレビ放送網株式会社報道局解説委員
宮島香澄氏は登壇された5人の経営者に向けて、以下の3点を質問されました。
1)本気の挑戦として取り組んでいる事業内容は地域からはどのくらい理解されているか
2)それにはどのくらいの人たちを巻き込んでいるか
3)どんな苦労や工夫をしているか
宮島氏は、5人の経営者の回答を受けて、地域の代表的な経営者として、これからも若い人たちの声を丁寧に拾い上げてほしい。また出身地である地元地域へ思い入れのある人たち、地元に貢献したいと考える人たちに対して、受け入れ側の地域もDXやインバウンド対応などで、これら志のある人たちを取り込んで欲しい、とコメントされました。
仮井 康裕 氏 広島電鉄株式会社 代表取締役社長
広島市内の8社のバス事業者は、みんなで市内の交通を守っていこうと話しあっています。このような話し合いの中で民間人の代表として出てくるのは、確かに年配の男性がほとんどです。全県民や全市民が利用者なので、利用者の意見をもっと聞きながら進めていきたいと考えています。
自治体の首長は、市民の移動を交通だけの問題として捉えず、街全体でどう動きやすくするかを提案してほしいと思います。事業者としても子どもや高齢者、障がい者のみなさんにもっとバスに乗ってもらうような枠組みを作りたい、例えば子どもが自分ひとりで公共交通を普通に利用できる形を行政と一緒に考えたいと思います。
今後、力を入れて取り組みたいと考えているキーワードは「住んでいる人たちがワクワクする交通システムを作りたい」です。公共交通を利用して下さるのは広島に住む人たちだけでなく広島に来る人たちもいらっしゃいますが、まずは広島に住む人たちがおもしろいと思ってくれる交通システムにしたいと思います。そして、これは当面の目標として、最終的には利用されるお客様が「何も考えなくても利用できる公共交通を実現したい」を目指したいと思います。
これは、利用されるお客様がバスや電車が来たら乗り、行きたいところに着いたら降りるというものです。運賃や時間、場所、システムなど解決すべき点はいっぱいありますが、実現に向けて努力したいと思います。
野村 文吾 氏 十勝バス株式会社 代表取締役社長
自動運転は、積雪寒冷地では一般地の自動運転技術の完成から10年から20年は遅れるとされています。これにより積雪寒冷地域とそうでない地域には「分断が起こる」とこれまでも指摘してきました。冬季に積雪寒冷地に対応するバスを走らせて実証することは、交通の現状や課題や将来のイメージが広く共有されて知識も深まります。「もっとこうしていこう」に向かっていきたいと思います。
帯広市の大空地区で戸別訪問を繰り返し、どうしてバスに乗ってもらえないのか本音のニーズを探っています。事例としてローカルハブ(地域拠点)を立ち上げてバス停そばにコミュニティースペースを作り、カフェを開き、生鮮品を販売しています。ここには、人が集まるのでマネージャーを置いて、日々みなさんとコミュニケーションしています。
また小中学校を併合した一貫校で「未来の大空を語ろう」という会を作り、いろいろな絵を描いてもらいました。今年は帯広の中心部まで広げ、子どもたちにどんな帯広になってほしいか夢を語ってもらっています。
人口減少や運転手不足に対して世の中がどう動いていくか、まだ不透明です。私たちが伝えないといけないと考えています。十勝では更別村がデジタル田園都市国家構想に採択され、「空飛ぶ車」もやろうとしています。また上士幌町では自動運転に早くから取り組んでいます。いづれも非常に刺激し合う地域です。
力を入れて取り組みたいキーワードは、鉄軌道のように便数の選択と集中で「市民によろこばれる路線」です。
これはバス事業者だけではできません。これからも地域のまちづくりと一緒になって、カバーしたりされたりしながら進めたいと考えています。
松本 順 氏 株式会社みちのりホールディングス 代表取締役グループCEO
無人自動運転技術は、バス運行の人手不足解消に重要な役割を果たします。しかし、現状の自動運転バスは時速10キロ、定員7~8名と実用性に課題があります。私たちは、20~30人乗り、時速40キロで走行可能な「普通の路線バス」を目指し、2025年度中にはBRT専用道での無人走行を実現したいと考えています。
また、現行の保安基準では、無人自動運転中に大幅な減速が必要となり、その結果、有人運転に比べて所要時間が長くなる懸念があります。このままでは、お客様の利便性が損なわれ、無人自動運転バスが受け入れられなくなる可能性があります。これらの課題に対しては、技術と基準の両面で改善に取り組む必要があると考えています。
キーワードは「深化と探索、両利きの経営」です。DXの時代の企業が成長のために必要としているのは、この深化と探索を同時に進める経営だと考えています。深化とは従来のオペレーションの改善を追及すること、探索は新しいテクノロジーを活用する組織能力を身に着けることです。これらはバス事業に限らないことであり、みちのりグループは交通インフラの領域でこれまでと同様に本気で取り組んでいきます。
松本 義人 氏 西日本鉄道株式会社 専務執行役員
自動運転がマイカーにまで広がると、公共交通には脅威になりますが、大量輸送の定期路線を走るバスが自動化するのはメリットが大きいと考えています。新たな基準で認める形を作ってほしいと思います。また事業のカギとなるのはAIオンデマンドバス(予約制・乗合形態)としてスタートした「のるーと」だと位置付けています。
AIオンデマンドバスは、これまでのような大きなバスを走らせる必要性があるかどうかをデータで示し、自治体に説明していきます。どの路線を従来のバスで残すのか、どこを新しいオンデマンドバスにするのかを決めてもらう必要があるからです。
「のるーと」は地域の女性や子どものみなさんが多く利用されています。その点を大事にしながら進めることが必要だと考えています。
公共交通事業者は連携しながら共に強くなっていかないといけません。
力を入れて取り組みたいキーワードは「九州MaaS」です。
8月から移動サービスの連携・統合サービスとして始めます。このサービスのために九州の交通事業者86社が正会員になりました。事業者として中には仲が良いとか悪いとか、色々ありますが、互いに手を取り合うことで公共交通を守ってゆくヒントが生まれると考えています。
大上 真司 氏 両備ホールディングス株式会社 常務執行役員
公共交通を首長がどう考えるかで、地域の公共交通政策にかなりの影響があります。全く関心のない首長から、非常に関心の高い首長までばらつきが相当見られます。このため公共交通事業は選挙も重要な要素だと考えていて、世論の形成に役立つような、争点になるような取り組みを進めたいと考えます。
交通事業の担い手を採用するため、地元の私立大学に半年の講座をつくりました。ここでは公共交通を講義する授業を展開しています。
これまで、公共交通の担い手は圧倒的に男性でしたが、当社はバス事業部門20人の半数は女性です。昨年も採用ドライバー85人の10%は女性が占めました。これはもっと引き上げたいと考えています。
力を入れて取り組みたいキーワードは「世界から選ばれる」です。私たちは
①他の産業からソリューションやアイデアが持ち込まれる業界
②資金が提供される業界
③働く場として選択してもらえる会社
④一番大切な地域のお客様に加えて海外のお客様にも公共交通を使ってもらえること
の4つの視点を実現させることで、世界から選ばれる企業となることを目指したいと思います。
総括
池光 崇 氏 国土交通省 公共交通政策審議官
今後の地域の交通事業のあり方は、従来の輸送サービスの提供中心から移動ソリューションの構築へとシフトしていくと考えています。生活の足がない地域は持続可能ではありません。今や待ったなし社会課題である地域の足の問題に対し、必ず解決できるという思いで皆様と共に取り組んでいきたいと考えます。
神田 佑亮 氏 呉工業高等専門学校 教授
久しぶりにワクワクした会議でした。どんな街やどんな社会を目指すかという事に、交通がどう貢献できるのか、交通事業者側はもっとメッセージを発信し、地域交通計画などの現制度で具体化させることが必要です。また他社や外部とのコミュニケーションを通じて交通の価値をもっと評価してほしいと考えています。今回は地域モビリティの可能性を感じました。
家田 仁 氏 政策研究大学院大学 特別教授
円卓会議は実際に活躍している交通事業の経営者にラウンドテーブル的に集まってもらい、市民に発信することを目的として始めたもので、とんがった皆さんに参加をお願いするよう企画しましたが、今日は大変とんがった会議になりました。成功だったと思います。
今日の皆さんのお話からは本気度が伝わります。地域のモビリティを何とかするには3つの柱があると考えています。ひとつは民間の工夫力とパワーで、これが中心です。次が公共の力、これも現在の制度を見直すことでずいぶんと変わります。そして最も大変で大切なのは、普通の人がモビリティが必要な人に普通に提供できることです。自家用有償旅客運送の一歩踏み込んだものですが、例えば隣のおばあさんが移動で困っていたら『一緒に乗っけていくよ。その代わり有償だよ』というようなこと。その一歩が日本版ライドシェアではないかと思います。
今後も少子高齢化で人口は減少します。仮に人口が半分になっても将来はあると思います。でもこれまでと同じではできません。「割り切る力」が必要です。危機感を持って割り切るところは割り切ること。これができれば明るい将来が見えると思います。
閉会のあいさつ
実行委員会を代表して、この場やオンラインでご参加された多くの方々、ご多忙ななか登壇頂いた登壇者の方々、後援を頂いた皆様、サポートしてくれた事務局の皆さんに感謝を申し上げます。
家田先生からもお話しがありましたが、昨年の円卓会議は困っている業界の状況を発表する会議でした。今回はこれをいかに脱し、公共交通事業者自らの「工夫と挑戦」に軸足を置いた会議になるよう企画いたしました。皆様のお力で、このようなワクワクする会議になりました。重ねて感謝申し上げます。
今年は各地の公共交通経営者の本気度をしっかりお聞きできました。この挑戦の結果が来年はどうなっているのか、またこのようなオープンな場でお知らせしたいと思っています。先ほど皆様からぜひ来年も聞いてみたいと拍手を頂きましたので、より力が湧いて参りました。本日はありがとうございました。
本稿は、東京交通新聞(2024年8月5日号)から一部抜粋しました。
円卓会議実行委員会
円卓会議2024は、今後も全国の各地域の公共交通事業者による開催を目指すため、複数の事業者や関係者による実行委員会体制で開催されました。委員長には両備ホールディングスの大上真司氏、顧問に政策研究大学院大学の家田仁氏が就任され、委員には岡山大学の床尾あかね氏(司会・進行)、みちのりホールディングスの淺見知秀氏と渡辺一真氏、地域公共交通総合研究所の町田敏章氏と三好理加氏が就き、事務局として矢野浩平氏、長澤貫太郎氏が参画しました。
左から 床尾 あかね 氏、淺見 知秀 氏、渡辺 一真 氏
事務局 矢野 浩平 氏、長澤 貫太郎 氏
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