【書評】持続可能な交通まちづくりー欧州の実戦に学ぶ(by 服部重敬研究員)

宇都宮浄人/柴山多佳児著 「持続可能なまちづくり~欧州の実践に学ぶ」

ちくま新書

(一財)地域公共交通総合研究所
研究員 服部 重敬

地方に行くと、それなりに名の知られた都市でも、街の活気に乏しいことが少なくない。駅前は閑散としており、かつては賑やかだったであろう中心部も歩く人が少なく、閉まっている店も多い。これに対し、欧州では規模が小さな都市でも中心部は賑わっていて、多くの人々が歩き、街を楽しんでいる。この違いはどこからくるのだろう。
筆者はその鍵としてモビリティに着目した。モビリティとは、言い換えれば生活の基礎となる移動のしやすさである。自動車による移動もモビリティに含まれるが、日本ではそれに頼りすぎることでバスなどの公共交通の利便性が大きく低下してしまった。公共交通が使いづらくなったことで、自動車を使えない人には暮らしにくくなり、街に行く機会も減って、結果として歴史と伝統をもつ都市が日常生活から乖離してしまっている。それが街が衰退している原因といえるだろう。
自動車に頼りすぎることは、環境面でも影響が大きい。持続可能な社会とは、社会、経済、環境の三つの側面で地域や国、さらには地球全体の機能が将来にわたり継続し、後生の人も現在、あるいはそれ以上に高い生活の豊かさを享受できることにある。日本の現状は持続可能といえるだろうか。
こうした問題はかつての欧州でも同じだったが、持続可能な社会を実現するための手段として、モビリティの選択肢を増やすことで、誰もが社会参加できる豊かで生活の質が高い社会を実現しようと努めた。その手段となったのが公共交通で、行政が関与する公共サービス義務(PSO/ Public Service Obligation)という契約ベースの運行で利便性を高めると共に、歩行者を重視した土地利用計画と組み合わせて街の空間を再編していった。こうしたまちづくりと交通計画を一体化した取り組みは交通まちづくりと呼ばれ、EU(欧州委員会)は2013年にSUMP(サンプ)と呼ばれる「持続可能な都市モビリティ計画」で、そのコンセプトを提示している。本書では交通まちづくりの基底にある持続可能性のまちづくりの意味を整理し、その社会をめざすためになぜモビリティが重要であるかを考察したうえで、「持続可能な都市モビリティ計画」のポイントを紹介し、都市の移動全体を改善することで、生活の豊かさや持続可能性を高めるための合意形成と政策の統合を図る方法を検討している。
日本でも持続可能な交通という言葉が使われているが、矮小化して単に公共交通の維持確保に留まり、より戦略的に交通を位置づけ、地域を持続可能にするための手法という本来の意味とは大きく異なっている。「持続可能な都市モビリティ計画」の手法がそのまま日本に適用できるわけではないが、良いところを学ぶことで、地域の活力は取り戻せるのではないか。その指針がつまっているのが本書である。

以上

服部重敬氏プロフィール

1954年名古屋市生まれ。1976(昭和51)年名古屋鉄道入社。NPO法人名古屋レール・アーカイブス設立発起人のひとりで現在4代目理事長、一般財団法人地域公共交通総合研究所研究員