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三村 聡

一般財団法人地域公共交通総合研究所の設立にあたっての所感

近年、地域間格差を拡大せしめる要因のひとつに「モビリティの脆弱化によるネットワーク性の欠如」が指摘されている。経済成長期までの国土開発思想は、規模の経済性を最優先とする大規模高速移動に耐えうるインフラの早期整備に力点が置かれ、急増する都市人口やモータリゼーションに対応する都市計画や交通計画を十分に検討する余裕が無いまま地域経済が急激に成長した。その結果、低成長期に入り、多くの地方都市で中心市街地が空洞化し、都市間格差は拡大を続け、公共交通の主役である路面電車やバス路線は全国的に衰退の途をたどっている。

さて、こうしたなかで次世代の地域社会の創造に向けた新たな流れが生まれつつある。それは官民の新しい関係構築を模索する動きである。これまで公共インフラを合理的に整備する組織であると理解されてきた行政システムが国民の多くからその組織疲労を指摘されるようになった。官の視座からは、国と県や市町村の役割責任の分担・分離や道路行政と交通行政の機能分離にまつわる組織的課題がガバナンスの問題として顕在化している。

一方、民間(市民や企業)も行政任せにして“交通まちづくり”が抱える課題に対して沈黙を守るケースが多かった。この点は「物言わぬ住民」として市民側の課題として指摘されてきた。こうした従来型の発想に基づく都市計画や公共交通計画では、利用者ニーズに適応した環境整備はできまい。

新しい公共や協働が議論される只中にあって、豊富な経験と実績を有する交通事業者自らが、地域公共交通の課題に正面から向き合うことを目的として、地域公共交通総合研究所を設立されたことは、誠に時宜を得た英断である。

本研究所の活動が、次世代を担う新たな地域公共交通のデザインを描く研究や諸活動を通じて、持続的な地域社会の発展に資することを祈念する。

略歴等

1959年愛媛県生まれ。
京都大学大学院経済学研究科博士(経済学)
社団法人全国労働金庫協会、社団法人金融財政事情研究会、金融財政総合研究所、現代文化研究所(トヨタ自動車研究所)、愛知学泉大学を経て、2011年10月岡山大学着任、11月から岡山大学地域総合研究センター副センター長、教授、2016年4月から同センター長、教授(大学院社会文化科学研究科)。

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