【第五弾】北海道中央バス株式会社
代表取締役会長 平尾 一彌様
令和2年(2020年)3月にはコロナ禍による人流の抑制の影響が出始め、早いもので丸3年の時が経過しました。また、事業年度として3年間、令和4年度も間もなく終わりますが、この間、コロナ禍は多大な影響を私共の経営に及ぼしました。
国内産業の業種、規模の大小にかかわらず、人流の抑制によって経済、社会活動がストップし異常な事態となり、通常生じる需要が一部の業種を除き消失しました。また、バス事業(乗合・貸切)の減収は私共がかつて経験したことのない甚大なものとなりました。「入るを計りて出ずるを制する」経営(事業計画)の体を全く成さない状況となりました。こうした状況は同業他社の皆さんと同様です。
バス事業はコロナ禍以前から人口減少(少子化、高齢化)を背景に乗合バスの利用減が進む一方で人手不足問題や働き方改革、DX推進、路線補助金制度の課題などを抱えております。そうした中で100年に1度の自然災害ともいえるパンデミック発生(疫病の世界的流行)によって新たな経営問題が起こっています。
私共が経営する地方圏、北海道は広域(九州の約2倍、四国の約4.4倍)で人口密度(1k㎡当たり66人)が低く、三大都市圏とは大きく異なります。これまでの経営のあり方では事業の持続・継続が困難なほど、計り知れない多大な損害を被っております。
規制緩和後およそ20年の歳月が経過していますが、先に述べました通り、この間に、道内人口減少が一層進み、利用者が減少し続けています。当社はバス事業を祖業とし今日まで乗合バスを事業の中核としてきておりますが、コロナ禍前の直近の経営状況は損益分岐点比率が低く、また、労働集約型事業で人件費比率が高く、つまり固定費比率が高い、他方、変動費比率が低い余力のない経営状況で、現実に近年は、輸送手段である車両(1,000両超保有)の代替購入も満足にできない厳しい経営実態にあります。
当社の減収状況は下記の通りで、戦時中の昭和18年3月1日創立以来の経営危機の渦中にあります。
年 度 | 減収金額 | 元年度比 |
令和2年(2020) | 約80億円 | ▲38% |
令和3年(2021) | 約75億円 | ▲36% |
令和4年(2022) | 見込み 約46億円 | ▲22% |
▲印 マイナス
コロナ禍も3年が経過し、現状全国の企業の景況感は、全ての業種が回復基調にあるわけではなく、K字回復といわれていますが、バス事業は上向きどころか数少ないK字の下向き事業となっています。また、この先、コロナ禍によって非接触社会等で人々の行動が変容し、バス利用者がコロナ禍前に戻らない(1割から2割の幅がありますが)という厳しい見方がされています。
コロナ禍によってさまざまなことがあるがここまで追い込まれ、経営に大きな影響を与えた最大の要因は、
貸切バスは需要が消失することで休業し、その間社員は休務し、コロナ禍の救済措置としての雇用調整助成金を受給させ、会社は人件費が軽減できます。
一方で、乗合バスはコロナ禍にあっても、地域のインフラであり生活の足として休業できず、利用者が減って、大幅な減収の中でも運行を継続しました。これに対し国の支援もなく、それも1年ならまだしも3年に及び人件費の負担が大きくのしかかり、大幅な赤字を余儀なくされたことに尽きると考えます。国からの地域の足の確保の求めに応じ、地域公共交通を担う私共が民間企業だから、こうした状況の中でも民間には一律に何らかの特別な支援はできないという対応は誠に理不尽な扱いです。
このことに対し現場の実態を踏まえた窮状を業界団体(北海道バス協会)とし道内で訴え、雇用調整助成金に相当する金額の支援を求め、大きな声で要望行動を繰り返しました。
私共の要望行動は、国(政府)に届かず、誠に残念としかいいようがありません。
道連(与党 自民党・公明党)へ陳情・要望
地方選出国会議員(与党バス議連議員)、道議会議員
国交省最高幹部、北海道運輸局
各種団体
コロナ禍にあっての各種要望行動の件数は下記の通り。
令和元年度(2019) | 8件 |
令和2年度(2020) | 12件 |
令和3年度(2021) | 7件 |
令和4年度(2022) | 3件 |
計 30件 |
※併せて地元紙に6回にわたって新聞広告を掲出(別紙1の通り)
地域住民のことや利用者に配慮し、バス運行の中断・休業を強行するわけにもいかない私共バス事業者への政策的配慮はありませんでした。雇用調整助成金の一部、社員への支給を含めコロナ禍対策の地方創生臨時交付金等の給付金があり、3年間の総額9億円強を頂戴しましたが、当社の総人件費の4~5%にすぎず、今日の危機的非常事態に対し、全く不十分でありましたことを申し添えます。
20年以上前の話ですが、かつて地方分権に関する道州制について北海道がモデルとしての取り組みが叫ばれましたが、私は、こと地域公共交通に関し、地域の問題であり、中央集権ではない地方分権こそ、国の姿勢としてあるべきものと考えます。権限と財源のセットの移譲ができて、地方圏を守る持続可能な地域づくりの重要な位置づけにある地域公共交通が生きるものと思います。まず、広域自治体としての役割を担う北海道庁に、権限と財源をセットで移譲することを始める、でどうでしょうか。持続可能な地域公共交通が可能となると思います。
地方自治体に温度差はありますが、コロナ禍を通じて、地域公共交通がいかにあるべきかが、求められました。国(中央)が、役割として各地の取組み状況を広く広報し、道庁、市町村、又、バス事業者に提供するなどがあると考えられますが、規制緩和後の民間の市場原理を基本とした現行の枠組みの中で、地域の足の改善策を考える。つまり、これまで通りのやり方に無理があり、見直してもらいたいし、見直すべきと思います。
少しくどくなりますが、国(中央)が現場の市町村の思い、住民、生活者の声、思いを、体感をもってどれ程、吸い上げることができるのでしょうか。また、総論はあっても地域公共交通の各論はまちづくりと一体で地域ごとに状況が異なり政策も異なるように思います。
市町村にはそれぞれの歴史があり、従って個別の具体的な課題の事業が存在するとも考えます。
さて、JR北海道では、7年前(2016年11月)から単独では維持困難として不採算路線13線区について関係自治体との協議が進められてきていますし、廃止、又は廃止方針が決まった路線は、現在バス転換への協議が行われています。
昨年来、JR西日本やJR東日本の鉄路の不採算路線の廃止とバス転換の方針が報道されています。
最近の動きとして、令和5年2月10日の「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定され、一部ローカル鉄道の大幅な利用減に対し地域公共交通ネットワークの再構築(リ・デザイン)を進める必要があるとしていますし、国の努力義務と地域関係者相互間の連帯に関しての事項が追加されています。
また、地域がバス等を地域の社会資本の一部として、位置付けた取組みに対し、「地域公共交通再構築等」を創設する行動もあります。
ここにきて政治が「地域公共交通の再構築」問題に動き始め、かつてない変化が起きています。
今後、地域公共交通の砦としてバス輸送がクローズアップされ、バス事業に目が向けられることが必然と思います。今は、これに期待したいと考えます。
繰り返しになりますが、持続可能な地域公共交通としてバス事業者が現状抱えている経営の壁、人手不足が心配です。バス乗務員不足等で減便、また、路線廃止に及んでいる現状で「2024年問題」となっている働き方改革もあります。さまざまな取組みが行われていますが、妙案はなく事業者は対応に腐心しています。
今後、本道の地域公共交通の取組みとして、道内7空港の高速バスのネットワーク化が必須であります。人手不足の中、地域の皆さん、利用者や関係者とバス事業各社が連携し、共に様々な選択肢を考え、民間の知恵で解決すること以外ないかと考えます。勿論、行政の応援を頂いてです。