アンケート結果 緊急速報
コロナ禍における公共交通事業の経営実態が判明!
―惨憺たる状況で、国や地方自治体の早急な支援の必要性が見えてくるー
代表理事 小嶋光信
令和2年1月に日本国内で初めて発症例が確認され、この災禍といえる新型コロナウイルス感染症は日本のみならず世界の社会や経済にまるで新たな世界大戦のような甚大な被害をもたらしている。
この未曽有の災禍は全く前例のないものであり、政府も国民も経済界も手探りの中で対策が進められていった。国民性なのか、はたまた日本人やアジア人の人種的な特性なのか、欧米諸国に比して感染者数や死亡者数ははるかに少ないが、経済、社会や国民生活に与えたインパクトは共に強烈なものであった。
この手探りの中、地方の生活交通や公共交通は政府の方針として国民生活に「不可欠な業務」として必死に運行(運航)したが、利用者の激減が経営に与えた影響はすさまじく、またどのくらいの影響かも実態調査が難しい中、当研究所としては実態を早急に把握し、国や自治体、交通事業者、そして利用者である国民が等しく状況を共有し、公共交通のサステナブルな維持に後顧の憂いのない対策が行われることを期待して分析内容を発表した。
多難な経営状況の中でアンケートにご協力くださった124社の事業者の皆さまには心から御礼申し上げたい。
この苦労の結晶の実態調査が、コロナ禍とアフターコロナにおける公共交通の維持・発展の対策立案等にお役に立つことを願っている。なお詳細は、添付の資料でご覧いただきたいが、その一部である調査結果の主要なポイント/サマリーを抜粋したのでご参照願いたい。
調査結果(主要なポイント/サマリー)
コロナ災禍の2020年4月~9月の間で、バス・鉄軌道・旅客船の公共交通の3セクターで大幅な輸送人員の減少が全国で継続している。
- 2019年度との比較において、約半数にあたる52%の公共交通企業で30~50%の輸送人員の減少、22%の企業では50~70%減少、13%の企業では70~90%の壊滅的な輸送人員の減少に見舞われている。
- 輸送人員が50%以上減少した地域は、九州・沖縄が54%と多い。一方で近畿地方では50%以上減少が13%であり、50%未満の減少が多かったと思われる。
- 要因としては特に、旅行(外国人訪日客を含む)やイベント等のレジャーへの依存度が高かった企業の輸送人員減少が著しい。生活交通を主体とする交通企業でも通学・通勤・通院による公共交通の利用減少の影響が出ており、学校や企業のリモート化が定着化しつつある現状を踏まえると、公共交通需要をコロナ禍以前の水準に戻すことは困難であろう。
- バス、鉄軌道は30~50%の売上減少の企業数がそれぞれ65%、68%となっている。旅客船では30~50%減少の会社数の43%を占め、50%以上の減少が34%であり厳しい売上金額の減少が見受けられる。
- 損失額の点では、バス会社は企業規模によるが1億円以上の損失を被っている。鉄軌道会社(以下鉄道という)は5億円以上の損害額が多い。旅客船会社(以下旅客船という)は5億円以上の損害額が多い。
- 輸送人員の減少、売上の減少は既に経営に大きな影響を及ぼしており、2020年9月までに回答企業の11%が債務超過に転落しており、昨年度末時点での企業の蓄え(剰余金)を半分以下に減らした企業が39%と約4割存在する。今年度末(2021年3月)までには16%の企業が債務超過になり、5割程度に該当する47%の企業で剰余金が半分以下の水準に低下する。
- 2020年9月の状態で、補助・支援がない場合は12か月以内に、経営維持に何らかの支障があると思われる会社の比率は、バス55%、鉄道61%、旅客船18%と回答があった。
- バス、鉄道、旅客船の全体では、何らかの補助や支援が得られないと約2割(19%)の企業では今期中に経営維持が困難になり、約3割(31%)の企業が来期中に経営維持が難しくなると公共交通企業経営者からの回答が得られており、合算すれば2021年度の来期末までに5割の企業で事業継続ができない可能性が示唆されている。
- 公共交通事業者も事業継続や路線維持を何とか模索する中、全国の交通ネットワークのうち、3割弱(26%)は現状のまま維持できる見通しだが、路線廃止や減便の検討対象路線が5割程度(46%)あり、行政支援がないと維持できない路線も2割程度(22%)ある。
- コロナ禍での損失を「回復不能」とする回答に着目するとバス18%、旅客船12%の回答に対して、鉄道は40%と倍以上の数値で回復不能とみている経営者が多い。回復速度は厳しいが、旅客船→バス→鉄道の順番で回復すると経営者は予測していることが見受けられる。
- 一方、生活、社会インフラ、経済などを止めないためにも公共交通網が果たす社会的役割は大きく、上述したようなコロナ禍での需要減少や経営の危機的な状況下でも社会的な不可欠業務としてその運行継続を政府や自治体から要請されている。アンケート回答企業の内、36%では減便を行いながら運行(運航)を継続し、なんと6割強(64%)の企業では社会的使命感のもとで平常通りの運行(運航)を続けており、業務そのものをやめてしまった企業は皆無だった。
- 利用者減少の中で政府からの要請に基づき事業運営を続けたことで損失が拡大したことは容易に想像でき、約9割(89%)の経営者は政府支援(損失補填)を求めている。
- 但し、8割方の経営者は全てを政府に頼るということも考えておらず、政府と自治体と企業の三者で等しく痛みを分かち合い、企業努力もきちんとしていきながら公共交通網を守るというスタンスを持っている。
以上のように、地域公共交通のコロナ禍という災害による損害は甚大で、国内全体の公共交通網を維持するには危機的な状況であり、対策は“待ったなし”の状況といえる。
こうした実態が公共交通に関わる全てのステークホルダー、即ち、政府・行政・国民(利用者)・公共交通事業者で共有され、重要な社会インフラたる公共交通網を守る手立てが早急に講じられること願ってやまない。