SUMP(サンプ)発刊の経緯と意義について
―Sustainable Urban Mobility Plans:持続可能な都市モビリティ計画―
欧州連合(EU)の都市交通計画の指針として Sustainable Urban Mobility Plans【通称 SUMP(サンプ):持続可能な都市モビリティ計画】が2013年に作られた。
2019年に第2版が公表され、 EU諸国のまちづくりと「人」の交通のあり方の指針として、「脱炭素」や「国民の健康」や「都市の交通安全」という政策目標に準拠し、極めて有効に活用されている。
SUMPの特長は「人」に焦点をあてたモビリティ計画であり、従来の交通計画が交通の流れを中心に計画されていることに対して生活の質(QoL)に焦点をあて、人に優しい計画になっている。
ヨーロッパはアメリカのマイカー中心社会をまねるのではなく、交通弱者に配慮し、本来、黒字になりにくい地域公共交通などを公設公営で確保する政策が取られ、公共交通が維持されてきたが、かつては公営、民営の両方があったところに、統合的サービスの提供や会計の透明性を高めるための制度の改正を経て、現在は公設公営と公設民営の両方が可能となっており、状況や民間事業者の有無に応じてどちらかが選択されているのが今の実態だ。公営の事業者、それに公営に準じる事業者も、今でも相当数存在している。
イギリスでは、サッチャー政権が1980年代に「交通の競争政策」で公共交通の利用者へのサービス向上を狙って効率化を図ったが、結果は過当競争やサービス低下を生み1990年代のイギリスの政権は競争政策からの脱却と公共交通の維持に大いに努力させられ、今日の結果になった。
一方、日本は皮肉にも少子高齢化が見え始めた1990年代から交通の競争政策を取り入れた規制緩和が重要視され、2000年、2002年に需給調整規制を廃止されいわゆる「利用者の利益」中心の現行法に変わった。しかし規制緩和後20年が経ち、日本においては大学が無い地方都市などの地域では高校を卒業した学生のほとんどが大都会に移動してしまうなどで、少子高齢化の進展が地方において凄まじい結果となり、地域の公共交通では「競争と路線維持が成り立たない」時代に突入してきたといえる。
まさに、この時に当研究所のアドバイザリー・ボード委員でもあり関西大学の宇都宮浄人教授が、当総研の町田専務理事にこのSUMPを紹介して下さり当総研で独占翻訳権を得て、同じく当研究所アドバイザリー・ボード委員(欧州担当)でウイーン工科大学の柴山多佳児上席研究員とともに翻訳、監修していただき、2022年10月22日に日本で発刊することになった。
今、日本の交通政策もコロナ禍で大きな転換点を迎えているが、リモートや社会生活の変化で公共交通も「昔の今」には戻らないと想定され、「危機に瀕する公共交通」の制度と経営の大転換を図らねばならない時期に直面していると言える。これからの公共交通は移動を中心の政策から、まさに主役は「人」と「健全な交通事業者」の存在に重要性が移っており、日本の公共交通も競争政策からの転換にこのSUMPが大いに役立つことを期待したい。