第7回公共交通経営実態調査でコロナ禍後の公共交通経営に明暗
―コロナ禍後の経営的影響は深刻だが、一方でGX,DXや利用促進等前向きな動きもー

昨2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類へ移行し、人流制限が解除された後の1年間で地域公共交通がどのような経営状況となっているのかを調査するため、2024年3月の決算報告が出る今年5月~6月にバス、鉄軌道、旅客船事業者約500社にアンケート調査を実施し、約2割の回答を得た。そのアンケートからみられるコロナ禍による経営的損害の実態と持続可能な公共交通事業の経営にむけての分析で、公共交通の維持にはかなりの抜本的な改革が必要なことが見えてきた。

コロナ禍中に実施した過去5回のアンケート調査結果を受けての当研究所の分析では、少子高齢化の進展とリモートなどの社会の状況変化もあり、「コロナ禍後もコロナ禍前の人流には戻らない」と警鐘を鳴らしていたが、案の定、売上もコロナ禍前の10%以上戻らない状況であることが明らかになった。

一方、悪いながらもバス事業と地方鉄道は事業者の懸命な努力に加え、国交省のリ・デザインや地方自治体の支援などで改善・改革が進みつつあるようだが、明暗が二分化されており、先行きは極めて不透明だ。しかし、特に地方鉄道は、上下分離による公有民営制度が和歌山電鐵での実証実験によって確立されたこともあり、スピード感は乏しいながらも先行きに明るさが出てきたケースも見られる。

総じて、「人員も車両・船舶も約5割が1~3割減少」しているという今回の調査結果から、労働力不足でコロナ禍前の路線維持が難しいことが浮き彫りとなっている。加えて、コロナ渦中に肥大化した負債は「全額負担できない」とする企業は4割超と前回と同様の高い水準で推移している一方で、「全額負担できる」とする回答が前回より2割以上増加し33%になるなど明暗が大きく分かれている。負債の返済については、返済免除や猶予を求める声も37%に達している。これは、もしコロナ禍のような事態がこの5年~10年内に再び発生すれば、企業は持ち堪える体力がなくなり、地域における利用者の移動確保が極めて難しくなることを潜在的に意味している。“喉元過ぎて熱さ忘れる”にならないように継続的な対策が必要だ。

片や、旅客船事業はリ・デザインで確保・維持・改善事業の離島航路補助以外も制度はあるものの財源が全くなく、特に瀬戸内海の中国旅客船協会調べで令和3年4月以降に廃止した航路は5航路、事業を休止した航路が5社19航路と多数に及び、うち11航路は再開したが8航路は未だ休止のままである。また直近では、名門旅客船会社がコロナ禍での多額の負債によって私的整理での経営再建に移行するとの新聞報道があったが、際立って回復が遅れており、債務超過が約4割に達するなど苦境に陥っている状況がこのアンケート調査でも明白に分かる。当研究所では常々、特に旅客船事業ではリ・デザインなどの制度はあるものの財源がなく、離島航路補助制度以外の十分な支援策がないことを危惧して「骨太の方針2023」にも「旅客航路の維持・活性化を含む」と付け加えていただき、前々から警鐘を鳴らしていただけに残念だ。

前向きな動きとして、利用者の回復が急務だが、「利用促進策を自治体と連携している」という回答が全体で62%あり、バス80%、鉄軌道65%とその効果が期待される一方で旅客船は23%に留まり、ここでも明暗が大きく分かれている。

また、自動運転やキャシュレス化などのDX化に取り組んでいるという回答が53%と半数を超えていることは、厳しい経営の中でも必死に将来を見据えて取り組んでいる姿が垣間見える。

規制緩和後では、利用者利益の保護という面から運賃の値上げがし辛く、過当競争も相まって、その皺寄せが経営の悪化と交通労働者の待遇悪化として出ていたところへのコロナ禍で、公共交通業界全体において経営悪化のみならず、コロナ禍での労働者の離職も加わっての極端な労働力不足を招いている。労働力不足への対応としては、減便や路線廃止が相次いでいるが、このままでは「コロナ禍による利用客の減少→労働力不足→減便・路線廃止→地域公共交通ネットワークの弱体化が利用者の不便を助長→更に利用客減少」という負のスパイラルが全国各地で多発するのではないかと案じられる

このように、コロナ禍の影響はもちろんだが、規制緩和が実施された2000年、2002年がまさに日本が少子高齢化に入った時と重なり、交通の競争政策が過当競争につながり、前述の負のスパイラルが過疎化する地域ですでに発生していることを忘れてはならない。ここにきて公共交通では、上下分離による公有(公設)民営化やエリア一括協定運行などをはじめとする「ビジネスモデルを変更して利益体質となるような制度改革」に取りかかっているが、今回の調査結果でも「強く必要と思う」57%、「やや必要と思う」25%と合計82%の企業がビジネスモデルの制度改革を求めていることが特記すべき事項と言える。

地域公共交通の「サステナブルな改革」は、コロナ禍後の対策だけでなく、もともと赤字体質の地域公共交通事業が「競争から協調」へと転換し、利用者も事業者もともに利益があるウィンウィンの需給の最適化が図られる「抜本的な道路運送法の改革」なくしては実現できないだろう。

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