【第一弾】伊予鉄グループ
代表取締役社長 清水 一郎様

株式会社伊予鉄グループ      
代表取締役社長  
清水 一郎

(1)地方の路線バスは厳しい
地方の路線を維持するには、どうしても自治体の理解と協力が必要です。県や市町村からの補助も出ていますが、それよりも赤字が大きく上回っています。国からは特別交付税として、年間500億円ほどの規模で各自治体に配られていると聞いていますが、実際の赤字額と、自治体の補助額には大きくギャップがあります。各自治体における赤字の算定の基礎として、ブロック平均の走行キロあたりのコストを計算に用いられるなど、バスの運行時間による実勢の人件費を含めた経費との違いが大きく、本来の赤字額と算定額に大きな開きがあります。特別交付税を大幅に増やして頂くとともに、「バス交通特別交付税」のような、自治体に交付された金額がそのままバス事業者の支援に直接行き届く仕組みが必要です。

(2)バスの人手不足は深刻
バス業界で働きたい人を増やすためには、仕事に見合う賃金とすることが必要です。仕事がきちんと評価され、それなりの賃金が支払わなければ、人は集まりません。そのために大事なのが運賃改定です。バスの運賃改定では、事業者ごとに適正な人件費を算出する必要があります。これまでは、地域ブロック内の平均値との比較でしたが、これが改正され、各県の全産業平均値との比較になりました。しかし、人手不足が深刻な中、バス業界で働いてもらうためには、人件費を平均で抑えるのではなく、実勢の人件費で算定する必要があります。バスを夢のある業界にするためには、きちんと評価され、賃金が支払われることが大事です。それにより、人が集まり、バスが持続可能となるのです。政府は「賃上げ」という以上、実勢の人件費が運賃に反映できるようにしてほしいと思います。さらに、バス運転士の深刻な人手不足を解消するためには、外国人のバス運転士を認めるような制度改正が緊急に必要であると考えています。

(3)環境問題への取り組み
本年はEVバス元年。日本バス協会では2030年までに1万台まで増やそうとしていますが、伊予鉄グループとしても本年10台導入する予定です。来年度はEVバス導入支援の税制に加え、予算においても全国のEVバス導入に100億円規模での補助金を支援いただけることになっています。カーボンニュートラルを推進するためにも、国の支援を更に加速してほしいと思います。
貨客混載の取り組みもスタートしました。昨年より日本郵便と連携し、伊予鉄バスが運行する路線で、バス車内の空きスペースを活用し、郵便物を輸送しています。路線バスを活用することで、CO2削減による環境への負荷軽減、人手不足の解消、物流コストの削減など、多くの利点があります。

(4)公共交通としてのバスの役割
公共交通とは何なのでしょうか。ほとんどのバス会社は民間の株式会社です。毎年の赤字・黒字の世界で事業を行い、赤字の場合は当然黒字を増やすことが目標になります。もちろん多くの交通事業者は様々な事業を展開しており、伊予鉄グループの場合も、まちづくりや観光も含めた相乗効果で利益を上げています。ただ経営者としては、交通事業が赤字でもグループ全体で利益を出しているならいいのではないか、という訳にはいきません。それでは株主への説明ができません。「地域のために公共交通がなくてはならない」のであれば、地域も応分の負担をしていかないと持続可能にはならないでしょう。海外には色々な考え方があり、例えば欧州などは公共が全面的に前に出て公共交通を担っています。しかし、私は民間で公共交通を行う「日本型公共交通」の良さがあると信じています。「日本型公共交通」の良さを生かしていきたいのです。
民間はダイヤを工夫し、新たなサービスを提供するための投資をしています。つまり民間がリスクを取り、サービス内容を自分で工夫する良さがあるからこそ、日本の公共交通は発展してきたと考えています。自治体がサービス内容を全部決めてしまう方法もあり得ますが、そうなると委託事業のようになって主体性が失われます。最終的には自治体にまかせざるを得ない場合や路線もあるかもしれません。しかし、私は民間の良さを生かした公共交通をどう突き詰めていけるかを念頭に頑張りたいと思っています。そのためにはリスクも取り、投資も必要です。

(5)安全面での対策
2016年に発生し15人が死亡した軽井沢スキーバス事故から7年が経過しました。昨年もバスが山道で横転するという事故がありましたが、運転士の責任やブレーキなどの車両面の問題だけにしては、事故は全く減りません。運行管理者は、アルコールチェックと健康面を聞くだけが仕事ではなく、あらゆる場面に対応して事前に教え込むことが基本です。バスの運行管理者の資格は終身有効となっていますが、今の制度で本当にいいのか疑問です。貸切バスにはいろいろな規模の事業者がいますが、単に「運行管理者の資格を持っている人がいる」ということで、本当に安全が担保されるのでしょうか。運行管理者の本来の役割は何でしょうか。本旨に立ち返り運行管理者制度を更新制にするなどの制度の見直しも一つの方法です。運行管理には良い人材の確保が欠かせません。それにはコストがかかりますが、バスが信頼されるための近道です。大半の事業者が真面目にやっていても、一部の悪質事業者がいることで、真面目な事業者が損をするような世の中ではいけない。悲惨な事故を繰り返さないためにも、運行管理ができていない悪質なバス事業者が市場から確実に退出する仕組みを、国に早急に構築して頂きたいと考えています。