【第二弾】熊本都市バス
代表取締役社長 共同経営推進室長 高田晋様

「地域モビリティの抜本的再構築に挑戦する」
●熊本の路線バス事業者5社による共同経営
熊本都市バス代表取締役社長兼共同経営推進室長 高田 晋

2021年3月に大臣認可された熊本の共同経営計画は、2019年3月に設置したバス交通のあり方研究会での検討結果をベースとしている。

このあり方検討会は熊本県内の路線バス事業者5社で構成し、そのプロジェクトチームを各社から1名以上募り、熊本県、熊本市へも参画を要請し発足させた。

その後2020年4月にプロジェクトチームを共同経営準備室へと改組し、(2020年11月独禁法特例法施行)共同経営計画認可後の2021年3月に共同経営推進室へと充実を図ったが、メンバーは5事業者と県・市の交通関係課の担当者であり当初の構成に変化はない。

この組織を中心に2020年4月以降活動を続けているが、2023年1月までに取り組んだ主なものは以下の通りである。

・分析システムの構築:路線再編等に活用するため5社の各種データを統合したバス停毎の乗降者、便数などの分析OD表の作成等が可能
・路線バス事業のデータ公表:5社合計の輸送人員、収支の状況、運転士の人数等を5年分公表
・5方面における重複区間の効率化と待ち時間の平準化(共同経営計画)
・共通定期券サービスの実施
・子ども無料、大人100円の日の実施(県下一円)、熊本市の依頼による公共交通無料の日の実施
・利用者増のためのマーケティング戦略策定と実施:行政との協働により10年で倍増を目標とする計画
・交通渋滞が激しいTSMC進出地域において、無料通勤バスの運行による渋滞緩和効果検証実験の実施:熊本県、近隣自治体、セミコンテクノパーク入居企業など関係機関の協力のもと実施

こうした取り組みは、毎月開催する各社の担当部長級会議と、そのほぼ1週間後に開催する社長会で議論し意思決定している。なお県・市の担当部署および市交通局からも部長級会議、社長会ともに参加して頂いている。また活動費用に関しても県、市から共同経営を支援する補助金として負担して頂いている。

ところで、2021年度の路線バス事業の収支は5社合計で約41億円の赤字であり、行政からの支援額は36億円であり、残りの約5億円はコロナ禍以前であれば内部補填で賄うところであるが、それが叶わないコロナ禍では借入金等で凌いでいる。
一方、現在の共同経営の取り組み効果は年間約5~6千万円程度であり、熊本の路線バス事業の深刻な経営状況に対しては極めて限定的と言わざるを得ない。

果は金銭面だけではないが、各社の厳しい状況からすれば収支改善効果は最も大事な点であり、更なる方策が必要である。

本年度から共同経営推進室で力を入れ取り組み始めた事業に利用者増に向けた戦略策定がある。

今更の感はあるが、お客様を、高齢者、通勤者、通学者、私用のグループに分け、それぞれの顧客グループのニーズにあった利用促進を行い、利用者を増やす計画である。

バス事業者5社が一緒に継続的に取り組み、効果を上げたいと思っているが、目論見通りの結果が得られたとしても、行政からの補助金が削減されるだけになったら、この取り組みの持続性は失われてしまう。

そこで行政にお願いしているのは、事業者の努力に呼応し、削減できた補助金を原資に、それ以上の行政投資を公共交通利用促進策につぎ込む政策の実行である。

(例)通学定期への行政補助の創設等))。こうした循環は更なる利用者増を生み、交通渋滞、環境問題、健康づくりなどの社会課題の解決の一助になるのだが、夢物語りだろうか?

また、TSMC進出予定地であるセミコンテクノパークの交通渋滞を新たなバス交通で緩和できないか検証する実験(令和5年1/27)を行ったが、参加人員は期待していた程ではなかった。改めて自家用車から公共交通への行動変容の難しさを実感したが、県が、さらにパワーアップした形で社会実験する経費を来年度予算に計上した。

来年度の実験や本格運行が現実化した場合には、ぜひ行政が中心となり、ナンバープレート制などのTDM施策やMM策を合わせて実施することをお願いしたい。

公共交通の維持のためには、こうした活動に一層のパワーを加えたいが、その為にも、共同経営の枠組み拡大が有効かつ重要と考えている。

タクシーや軌道事業者など他の交通モードに参画を求め、交通モードを超えた連携が実現できれば、行政との関係もさらに密接になる。

こうした関係性の構築を睨みつつ、国が提案している「エリア一括協定運行事業」を今後検討する予定である。

熊本県の世帯当たりの自動車保有台数は令和3年時点で1.64台である。

熊本の中心部でマンションを販売する際に、一世帯2台の駐車場を用意することを求められる土地柄であり、移動手段として交通機関を意識させるだけでも大変な地域である。

こうした地域で公共交通事業をサステナブルに維持するには、交通事業者間の連携強化と行政との緊密な関係構築による交通政策の展開は欠かせない。