第2回 公共交通経営実態調査報告書【2021.06.11】

一般財団法人地域公共交通総合研究所
代表理事  小嶋 光信

本年4月~5月の508社(123社回答)の公共交通を中心にしたコロナ禍の第二回の経営実態調査でほぼ半数の46%が今年中に経営維持困難と表明し、地域公共交通の崩壊が懸念される状況にあり、その損害額と推計される約2500億円に対して交通政策基本法第13条の「法制上、財政上の措置」に基づき早急な支援と対策が必要になっている。

①「不可欠な業務」として運行(航)した鉄軌道、バス、旅客船などの公共交通は旅客数が5割以上激減した16%を含む63%以上が3割以上の減少による損失で2500億円の損害を被っていると推定される。

②この3月で14%の債務超過に陥った企業を含め永年蓄えた剰余金を半分以上毀損した交通事業者が全国で半数程度存在するという大変な経営危機にある。

③その借入金の返済には10年以上かかると予想する社が64%、うち返済不可能が22%に達している。鉄軌道は50%が回復不可能と表明している。

④公共交通の94%の企業が政府や自治体の支援を求めている。支援がなければほぼ半数の46%の交通事業者が今年度中に経営維持が困難と答えている。

という異常事態に対して、交通政策基本法の政府と自治体の生活交通確保の責務として第13条「政府は、交通に関する施策を実施するため必要な法制上または財政上の措置その他の措置を講じなければならない」に基づき下記の対策を緊急に講じるべきである。

1 早急な政府と自治体の緊急支援策が必要

公共交通は一旦破綻すると再建が難しく、政府と自治体あげての早急な支援策が必要と言える。総研推計で地域公共交通のこの1年間の損失額は2500億円と思われ、「地方創生」の危機ととらえ、国交省の地域公共交通緊急支援とともに内閣府の「地方創生臨時交付金」でたちまち破綻や大幅減便や不採算路線の廃止が起こらないように緊急に「地方路線維持 特別支援金」が必要

2 長期において借入金の返済原資が確保できないため10年以上長期安定的な無利子の公的融資支援が必要

3 地域公共交通のビジネスモデルが破壊されており、抜本的なビジネスモデルと制度改革が必要

鉄軌道では公有民営が制度化されているが、地域におけるバスや旅客船事業も公有民営や公有民託の制度化が必要になった。

これら3点を緊急課題として解決していくことが地方創生の前提となる地方交通の維持・存続上きわめて重要となったと言え緊急な政府と自治体の対応を提言する。

本調査の詳細は、以下の通りである。

(輸送人員の減少とその要因)

1.2019年度との比較において、2020年度では約半数にあたる47%の公共交通事業者が30~50%の輸送人員を減少させ、33%の事業者では10~30%の減少が起きた。50%以上もの壊滅的な輸送人員減少に見舞われた事業者が16%存在する。(P.9~10質問2)
2.セクター別で最も厳しい影響が出ているのは旅客船で、27%の事業者が50%以上の輸送人員の減少に直面した。(P.9~10質問2)
3.輸送人員の減少の要因は、リモートなどでの通勤・通学利用者の減少(30%)、出控え(23%)、イベント自粛(16%)、外国人観光客減少(12%)が効いている。今後もリモートの進展や出控えなどにより、10% ~20% の恒常的減少の懸念がある。(P.14~16質問5)

(売上の減少)

4.輸送人員の減少に伴い2019年度比で、売上を38%の公共交通事業者が30~50%減少させ、44%の事業者で10~30%の減少が生じ、14%の事業者で50%以上の壊滅的な売上減少が起きた。(P.13~14質問4)
5.セクター別では旅客船において20%の事業者で50%以上の売上減少があり、コロナ災禍の深刻な被害が出ている。(P.13~14質問4)

(コロナ禍での公共交通の運行(運航)状況)

6.輸送人員は大幅な減少に見舞われる中、公共交通は「不可欠な業務」として運行(運航)継続を政府から要請され、64%の事業者で平常運行が行われ、減便等の対応を行った事業者は36%であった。全く運行を止めてしまった事業者は皆無で、公共交通事業者の地域を支える使命感が垣間見える。(P.25~26質問9)

(経営状態)

7.輸送人員の低下に伴う売上減少の影響で、また、「不可欠な業務」としての運行(運航)継続する中で、公共交通事業者のうち35%は2019年度末から比較して2020年度末で剰余金を半分以下の水準に低下させ、14%の事業者が債務超過に転落した。(P.16~17質問6(ア))
8.セクター別では、旅客船で26%、鉄軌道で18%、バスで7%の事業者が債務超過に陥っている。(P.16~17質問6(ア))
9.コロナ禍での赤字回復には10年程度要するとした事業者が27%、15年~20年程度必要とする事業者が8%、回復不可能とした事業者は21%存在する。(P.23~24質問8)
10.セクター別で特に深刻なのは鉄軌道で50%の事業者が赤字からの回復は不可能と回答しており、これらの事業者では当然ながら負債の自力返済も難しくなっている。(P.23~24質問8)

(今後の経営の継続性と路線維持)

11.2021年度に昨年度と同様の状態が継続し補助や支援が得られない場合、事業継続に全く影響のない事業者は15%しかなく、半数程度にあたる46%の公共交通事業者で経営維持が困難になり、地域公共交通の半分程度がなくなる可能性が生じている。(P.34~35質問15)
12.セクター別に、鉄軌道で58%の事業者が今期中には経営維持が困難になる可能性があり、同様の状況がバス事業者で44%、旅客船事業者で39%を占める。(P.34~35質問15)
13.こうした経営状況を受けて路線(航路)の撤退・廃止などが一定程度進む可能性があるが、行政支援を受けての路線維持交渉も全セクターで進んでいる。特にバスでは全体の38%の路線について行政支援を得ながら維持する交渉が行われている。(P.34~35質問15)

(公共交通事業者に必要な支援とスタンス)

14.こうした苦しい状況下でも「不可欠な業務」として運行(運航)を継続する中で94%の公共交通事業者が政府からの支援を求めている。(P.26質問10)
15.但し、損失の全てを政府支援で補うのではなく、政府・自治体・事業者で1/3ずつ等しく負担することが妥当と考えている公共交通事業者は86%も存在する。(P.31質問13)
16.公共交通事業者が求めている支援は、支援金、損失補填、設備維持等の支援など根強くあるが、規制や制度見直しの要望も存在する。(P.40~46質問19)

以上のように、我が国では公共交通ネットワークを残せるか否かの瀬戸際にあることが明らかになった。この実態を踏まえ、「不可欠な」公共交通を次世代に残すために、緊急性を持って交通網維持に向けて必要十分な政策・施策等が展開されることを願うばかりである。

参考:第2回公共交通経営実態調査報告書 (PDF)